〝住宅弱者〟の居住支援を 多様性への理解がカギ

 日本の高齢化率は世界トップの28・1%で“超高齢社会”に突入した。高齢者の単独世帯数も年々増えている。相続や〝終活〟を背景に高齢者の賃貸住宅へのニーズがある一方、家賃の滞納や孤独死といったリスクが伴うため、入居を断られる高齢者も多い。この問題は、シングルマザーや障害者、そして性的少数者「LGBT」にも当てはまる。“住宅弱者”の居住支援の前提となるのは、正しい知識・情報と多様性への理解だ。

部屋探しで困っているLGBTsの窓口として、積極的に情報発信し、誤解解消に取り組む=写真は「東京レインボープライド2017」(17年4月29日~5月7日)に出展した時の様子、(株)IRIS提供

 

 ある日、「独り暮らしの年寄りに貸してくれる部屋はありますか?」という問い合わせの電話がある不動産会社にかかってきた。聞けば、25年間住んでいた賃貸住宅の所有者が亡くなり、立ち退きが決まったため、新たな入居先を探していたが、どの不動産会社からも断られたという。老人は「最後に紹介された会社がここでした」とつぶやいた。

 この電話主のように、現在、高齢者が賃貸住宅への入居を希望しても断られるケースが多い。年金の受給者であっても、緊急対応や孤独死、死後の手続きなどの手間や、リスクを考えると、オーナーや不動産管理会社はどうしても二の足を踏んでしまう。

 こういった状況を受け、政府は2017年10月から新たな住宅セーフティーネット制度をスタートさせた。

 高齢者や低所得者といった“住宅弱者”を対象に、民間賃貸住宅や空き家を活用する新制度で、入居対象者に対する一定の家賃補助のほか、入居前後の人的支援、同制度に賃貸住宅を登録したオーナーに対する改修工事費用補助や債務保証支援なども盛り込み、空き家対策と住宅弱者支援をトータルで推進していくことを目指す。対象にはひとり親世帯や被災者、外国人なども含まれており、現在までに816件・1万884戸(今年9月8日時点)が登録された。

IRISの須藤啓光社長(株)IRIS提供

狭まる選択肢

 

 部屋探しで苦労しているのはLGBTも同じだ。

 LGBTとは、「レズビアン(女性の同性愛者)」「ゲイ(男性の同性愛者)」「バイセクシュアル(両性愛者)」「トランスジェンダー(心と体の性別が一致していない人)」の頭文字で、四つの性的マイノリティーの略称として使われている。またLGBTに含まれない性的マイノリティーの人も含めて、「LGBTs」「LGBTQ」と表すこともある。

 日本のLGBT人口規模は、推計で8%程度(日本労働組合総連合会・16年6月調査)で、これを人口換算(1億3千万人)すると、約1千万人。本人が公表しにくい状況を考慮すると、実際はもっと多いと推測される。

 LGBT当事者は、教育や就労、医療、公的サービス・社会保障といった生活場面でさまざまな制限があり、特に住まい探しについては理不尽な思いをすることが多い。

 17年からLGBT向けの不動産仲介を手掛ける「IRIS(アイリス)」(東京都世田谷区)の須藤啓光社長によると、男性パートナー同士の場合では、ルームシェアを前提とされ、該当物件が少なくなり選択肢が狭まったり、「担当営業者から属性を聞かれた結果、その場で契約を断られたりすることもあった」と話す。

 またトランスジェンダーでは、容姿と戸籍上の性別・氏名のギャップがあることで、契約段階で拒否されることもあるという。

 リクルート住まいカンパニーが昨年実施したLGBT実態調査では、住まい探しでセクシュアリティーに起因する困難や居心地の悪さを経験したLGBT当事者は約3割という結果だったが、「現場感覚ではそれ以上」(須藤社長)であり、ストレスなく借りられる状況とはいえないだろう。

 一方、15年11月に東京都渋谷区が自治体として初めて導入した「同性パートナーシップ認定制度」は、少しずつ影響が出始めている。

 これは法的に認められていない同性婚について、自治体が公的に認め、公営住宅などの賃貸借といった生活支援を行う制度で、「同制度が話題となったことでLGBTという言葉も知られるようになり、オーナーや管理会社も特別視せずに受け入れるようになってきた感覚はある」(須藤社長)という。

 これまでに全国25自治体が導入しており(19年9月2日時点)、LGBT当事者側も、対外的根拠となる効力があるとして、導入自治体エリアを選択する傾向が出始めている。

 とはいえ、まだまだ不安を感じるオーナー・不動産管理会社が多いのも現実だ。

 須藤社長は、「性自認や性的指向といった属性はあくまでも個性です。正しい知識・情報を知れば不安・誤認は解消でき、あとは支払い能力といった従来の入居審査条件で判断できる。同性パートナー同士の入居も、多様な家族のあり方として、柔軟かつシンプルに考えればいいのではないでしょうか」と提案する。

 同社では、オーナーや管理会社に対しLGBTについての誤解の解消と物件掲載への交渉を地道に重ね、入居検討者にはLGBT当事者として寄り添ってきた。その結果、この2年間で問い合わせや掲載物件も増え、入居者の満足度も高く満室状態が続いている。

 須藤社長は「少子高齢化が進み空き家も増えていく中で、ビジネスとしてもLGBTという切り口は差別化戦略の一つになり得る」とも指摘する。

プライバシーへの配慮や不安解消など、社員全員が「きめ細かな対応」を意識。写真は打ち合わせの様子=7月、(株)IRIS提供

 

“ブーム後”が勝負

 

 さて、本稿の冒頭のエピソードは、須藤社長がこれまで体験した一つのエピソードだった。

 LGBTの部屋探しは、問い合わせから入居後まで作業工数が多いため、高齢者だとしても「手間はほぼ一緒」(須藤社長)ということで、冒頭の高齢の相談者の入居先も無事、見つかったという。

 創業時はダブルマイノリティーとなる外国人からの問い合わせは想定していたが、「高齢者や障害者などLGBT以外の人からの問い合わせが、思った以上に多い」と須藤社長は話す。

 もともと同社では、多様なマイノリティーに対応していく方針で「LGBTs」と表記している。「同性パートナー同士が家を借りづらいという問題は、ジェンダーバイアス(性に基づく差別や偏見)の側面が大きいが、バイアスという部分だけでみれば外国人や障害者、高齢者、シングルマザー、起業家など、いろいろな属性につながる」とし、今後、マイノリティーの範囲はさらに拡大していくと予想している。

 ただ、「来年の東京五輪・パラリンピック後には“LGBTブーム”も下火に」との指摘もある。一過性のブームで終わらせず、マイノリティーが普通に、安心して生活できる居住環境を整えていくことは、回り回ってみんなが暮らしやすい社会につながるだろう。 

[筆者略歴]

フリーライター

玉城 麻子(たまき あさこ)

1972年生まれ、国学院大学法学部卒。地方紙や建築設備関連業界紙などを経て2008年に重化学工業通信社入社。「石油化学新報」「アジア・マーケットレビュー」を担当。15年3月に独立

 

(KyodoWeekly9月16日号から転載)

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