「本の森」資本主義と闘った男

佐々木 実著

● 642ページ

●講談社(税別2700円)

 

心は淋しき経済学者

 

 経済学者、宇沢弘文の評伝である。宇沢といえば名著「自動車の社会的費用」(岩波新書)でよく知られるようになった。評者もそのくちだ。それ以外では水俣病問題や、成田空港問題にかかわっていたこと、それに「社会的共通資本」という考えを唱えていた学者ということだろうか。

 自動車に対する厳しい批判者で、車に乗らずジョギングと電車で移動する風変わりな経済学者でもあった。白くて長いあごひげと口ひげでも有名だ。

 本書の副題は「宇沢弘文と経済学の世界」で、宇沢と関係があった欧米の著名な経済学者の説明や学説が詳しく記述されている。だから経済学説の勉強になる。

 しかし、かなりのページがそれに充てられ、焦点がぼけてしまった。佐々木が6年前に出したエコノミスト竹中平蔵の批判的な評伝「市場と権力」(講談社)と比べると、その感が強い。読み物としての面白さは竹中本の方がよくできている。

 1956年に渡米した宇沢は、数理経済学の分野で次々と業績を上げる。友人や教え子にはノーベル経済学賞をとる学者がたくさんいて、本人も受賞すると思われたが、なぜか実現しなかった。

 68年にベトナム戦争に嫌気がして日本に帰ってくる。米国でどのような研究をしたのかは、本人が別の何冊かの著作で部分的に書いてはいる。しかし、どう評価されたのかも含めて一つの物語として本書で初めて書かれた。

 「日本に帰ってから10年間、経済学から離れた」と、生前の宇沢が著者とのインタビューで漏らした。経済学に失望していたのだった。

 また、宇沢が唱えた社会的共通資本という考えに、他の経済学者はだれもついてこなかったと本人が言ったり、家人が「一人ぼっちだった」と話したりするくだりがある。

 晩年の著作を読むと、宇沢の主張は経済学の枠組みから大きくはみ出している。これでは後継の経済学者もいなかったはずだと思う。米国の女性小説家の本の題をもじれば、「心は淋(さび)しき経済学者」だったのだ。

 本書の最後は、硬い本にしては小説の趣がある。敗戦直後、宇沢は故郷の鳥取県に一時帰る。毎日のように神社に出かけては本を読む。いつも空っぽの鳥かごを持ってくる。遊んでいる子どもが不思議に思って聞くと、こう答えたという。「青い鳥を探しているのだ。キミたち、知らないか」。宇沢にとって青い鳥はなんだったのか?

 最後に題名について。分かりやすくして1冊でも多く売ろうということだろうが、こんな書名を付けても600ページを超える本は売れはしないだろう。多少なりとも宇沢に関心がないと、手が出しにくいからだ。(敬称略)

(北風)

 

(KyodoWeekly9月9日号から転載)

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