「陸海空の現場~農林水産」後手に回ったイノシシ対策

 恐るべき感染力だ。2018年9月に岐阜市で発生した豚コレラは丸1年が経過し、終息を見通せないどころか、昨年の愛知県に続き、今年に入り長野、滋賀、三重各県と大阪府で、7月には福井県、9月に入って埼玉県などでも発生し、広域化している。

 さらに野生イノシシの感染は、石川、富山県でも確認され、もはやコントロールは不可能な状態だ。当面の課題は農場での発生を食い止めることだが、長期的には豚コレラウイルスとの共存を前提に、養豚業のあり方自体が見直しを迫られるだろう。

 

イノシシ・ファースト

 

 昨年の初発段階では「アフリカ豚コレラでなくてよかった。衛生管理を徹底するための警鐘になった」(農林水産省)という楽観論さえあった。

 中国で猛威を振るい、フィリピンや韓国でも発生が確認されたアフリカ豚コレラは、豚コレラとは別の病気で有効なワクチンが存在しない。万一、発生した場合の対策としては、殺処分と衛生管理の徹底しかない。

 岐阜県での豚コレラ発生を奇貨として、全国の衛生管理の徹底を図ることが政策上、どこまで意図的だったかは不明だが、当時はイノシシの行動範囲は10キロ程度で「豚の感染が先である可能性が高い」(農水省疫学調査チーム)とされ、衛生管理を徹底すれば豚コレラは終息するというのが行政当局の見立てだった。

 結果的に、野生イノシシの対策が後手に回ったのは「失政」というほかない。

 長期化に伴い、感染ルートの特定はもはや困難だが、ギョーザなど中国産の豚肉を原料にした食品を介して、岐阜市かその周辺でイノシシが感染し、イノシシによって山中や里山にウイルスが拡散され、人によって豚舎へ侵入したという「イノシシ・ファースト」が筆者の持論である。動きが鈍い冬の間にイノシシを集中捕獲して、感染源をつぶしておけば、豚コレラの長期化や広域化は避けられただろう。

 

分断される畜産業

 

 豚舎の衛生管理を徹底しても再発を防げないのは、ウイルスの拡散が広範で濃厚な上、豚舎への侵入ルートが多様だからだ。具体的には、自動車、作業器具、資材、餌、靴や衣類、登山具など人が関わるものすべてが媒介している可能性がある。

 長期・広域化に伴い、農水省は豚へのワクチン接種を容認する苦渋の決断を迫られたが、課題は多い。ワクチンを接種すると豚肉の貿易上の優位性を失い輸出が困難になる。

 接種を発生地域とその周辺に限定し、未発生の大産地である九州と東北地方などを除外するのも選択肢の一つだが、国内にワクチン接種済みの豚肉と、そうでない豚肉の2種類が流通することになる。ワクチンを接種した豚肉を食べても人への影響はまったくないが、消費者がそれを違和感なく受け入れるかどうかも未知数だ。

 いずれにせよ、養豚場での発生を目先は鎮圧できても、野生イノシシの感染はさらに長期・広域化するのが確実だ。

 鳥インフルエンザと同様に、農場の外側の自然環境に常にウイルスが存在することを前提にしなくてはならない。今でも豚舎は人里離れた立地が多いが、この傾向がますます強まる。フェンスで囲まれ、風も通らないような密閉型の工場のような農場になるだろう。

 豚がどのような生き物で、どのように育てられるのかを知らず、知識はあっても実感できない。人の日常生活と畜産業が分断され、長い目で見れば悲しむべき事態を招くだろう。

(株)共同通信 アグリラボ所長 石井 勇人

 

(KyodoWeekly9月30日号から転載)

 

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