「はじめの一歩」~日本の農業③ データ活用しノウハウ可視化

 最新の日本農業の現状を報告してもらう、この企画も最終回を迎える。今回は農業データを蓄積、活用することで、熟練した農業者のノウハウも可視化することができ、日本農業の競争力アップにつながるとの「希望」が語られた。従来の「農業」へのイメージが少しでも変化することを期待したい。(編集部)

※前回(https://www.kyodo.co.jp/national-culture/2019-07-23_2139392/

 

 Q 経営や営農に関するノウハウ活用について、国内ではどのような動きがあるのでしょうか。

 A スマート農業の普及によって、日々の農作業の記録、作物の画像、土壌・気象といったデータが得られるようになってきました。こうしたデータを基に、農業者が長年にわたって蓄積してきたノウハウを分析し、活用する動きが加速しています。

 農業のデータ活用を進めるにあたって、国内では、データを蓄積するプラットフォームと、データを収集するデバイスの二つの要素が充実してきています。

 前者については、「農業データ連携基盤」が2019年春より本格稼働を始めています。農業データ連携基盤は、内閣府の戦略的イノベーションプログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」の中で開発されてきたものです。

 Q 農業データ連携基盤の開発の背景は何でしょうか。

 A 近年、多数の農業データサービスが展開されています。農機メーカー、ドローンベンチャー、センサーメーカーなどは、自らが提供するデバイスのデータを表示するためのアプリを開発しています。アプリの仕様はメーカーごとに異なるため、農業者は、使用しているデバイスごとに複数のアプリを起動して管理する必要がありました。

 また、ITベンダーなどが展開する作業日誌や経営管理アプリでは、企業が独自に開発してきたために、相互に連携ができない点で問題となっています。

 データの標準化に関しても課題があります。例えば、同じデータを取得するセンサーであっても、測定方法や保存形式が違うため、データを使用するためには、そのばらつきを補正し、形式を変換する手間が生じています。また、行政や研究機関などが保有する有用な公的データが分散しており、まとめて公開できる状態にないという問題もありました。

 Q 農業データ連携基盤にはどのような機能がありますか。

 A 農業データ連携基盤には、データのプラットフォームとして、メーカーやITベンダーが保有するデータを連携・共有する機能、土壌・気象などのデータを提供する機能があります。

 従来、データの提供を行う場合は、接続先に応じて都度システム改修が必要でしたが、農業データ連携基盤を使用することで、一度簡単なシステム改修を行えば、さまざまな企業に対してデータを提供することができるようになります。

 アプリ開発を行う企業であれば、農業データ連携基盤を通じて提供される土壌や気象などのデータを、独自のアルゴリズム(計算手法)開発などに利用することができます。

 Q 農業者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 A データ活用が進むことによって、熟練の農業者がもつノウハウを可視化して蓄積していくことができます。長年の経験により得られたノウハウを伝承していくことは日本の農業の競争力の維持・向上に不可欠です。若手の農業者にとっては、データサービスの充実により、農業技術の習得に必要な期間を短縮することが可能になります。

 また、ノウハウを活用した営農指導サービスなど、新たなビジネスが発展する可能性もあります。

MY DONKEY(実証機)=2018年7月、栃木県茂木町の実証圃場(日本総研撮影)

加速するデータ収集

 

 Q データを収集するデバイス側にはどのような動きがありますか。

 A デバイス側では、農機メーカーに加えて、センサー、ドローン、ロボットなどのベンチャー企業の参入が加速しています。日本総研でも大学・民間企業とのコンソーシアムで自律多機能型のロボット「MYDONKEY」を開発しています。

 デバイスにより収集できるデータは4種類あります。土壌や気象などの栽培環境に関するデータ、葉や果実の大きさ・色などの作物の生育状況に関するデータ、作業の日付や農薬・肥料の散布量などの作業履歴に関するデータ、収穫物の大きさ・重さ・色などのアウトプットデータの四つです。

 こうしたデータを組み合わせて、さまざまな側面からデータを解析することで、ノウハウの抽出を加速することができます。

MY DONKEYイメージ図(CG) 中央のパーツがベースモジュール。各種アタッチメントを接続してさまざまな作業に対応(日本総研)

 Q 「MYDONKEY」とはどのようなロボットですか。

 A MYDONKEYは日本に多い小規模な圃(ほ)場での使用を想定した小回りの利くロボットで、農業者の追従および自律走行の機能を備えています。

 農業者の後ろについて収穫物、農薬、肥料などを運搬する、自律的に移動して鳥獣害対策や作物のモニタリングを行うといった使い方が可能です。専用のアプリを用いて、スマートフォンからリモコン操作をすることもできます。

 例えば、倉庫から畑まではリモコン操作で移動し、畑では追従機能を使って作業をするというように、複数の機能を組み合わせることで、効率良く作業することができます。

 MYDONKEYでは、制御・通信システムなどの基本機能を有するベースモジュールに、各種アタッチメントを接続することでさまざまな作業に対応することができます。作業に合わせてアタッチメントを選択することによって、年間を通して農業者をサポートすることが可能になります。

 Q データ収集についてはどのような機能がありますか。

 A アタッチメントにはデータ収集用のデバイスが付与されています。例えば、コンテナ運搬アタッチメントでは、コンテナ二つを載せることができる仕様となっており、それぞれのコンテナの下にはかりが設置されています。

 農業者がコンテナに収穫物を入れると、はかりによってコンテナの重さが自動的に記録されていきます。MYDONKEYは位置情報も得られるので、畑の中の位置と収穫物の重さを同時に記録することができます。さらに、コンテナごとに品質を分けることで、品質についても記録することが可能になります。

 こうして、年間を通して1メートルメッシュのような細かな単位で作業内容を把握することにより、これまで分からなかった農業者の作業時の勘をデータとして捉えることができるようになります。

 普段通りに作業を行えば、自動的にデータが収集される仕組みとなっているので、農業者がデータ収集のためだけに煩雑な操作を行う必要がない点も利点です。

 Q MYDONKEYの開発状況はどうですか。

 A 現在は、農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」にて、栃木県茂木町、山梨県中央市の二つの地域で、それぞれ露地栽培のナス、醸造ぶどうを対象に実証を実施しています。

 「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」は栽培から収穫・出荷までの一連の作業を一貫体系として確立する事業です。前述の2地域では、MYDONKEY、土壌センサー、気象センサー、栽培日誌アプリなどを活用した一貫体系を構築しています。

 

消費者へのアプローチ

 

 Q 農業のデータ活用が進むと、農業者にはどのようなチャンスが生まれるでしょうか。

 A 農業現場では、ノウハウの活用による収量や品質の向上、後継者へのノウハウ伝承による人材育成および事業承継、営農指導ビジネスの展開などに期待が集まっています。

 スマート農業への期待は、農業現場でのデータ活用だけにとどまりません。新たな価値として、農業現場から消費者の食卓にアプローチできる点が注目されています。

 スマートフォンやSNSなどの普及により、農業者は容易に消費者との接点をもつことができるようになってきました。そうしたツールを通じて、消費者に対して、農業現場のデータを提供することで、農産物のブランディングに役立てることができます。

 最近では、積極的な情報発信により、単価の上昇やファン・リピーターの確保に成功する農業者も多数出てきています。農業者にとっては、自らが生産した農産物が、どのように消費されているか知ることで、栽培方法の改善やモチベーションの向上につなげることができます。

 Q どのようなデータの使い方が想定されますか。

 A 例えば、農薬の利用履歴などの作業履歴データからトレーサビリティーを確保することで安心・安全を保証する、栽培中の農作物の様子や日々の作業の様子を撮影してSNSなどで配信することで、農業者のこだわりを消費者に伝える、といった方法が期待されます。

 後者では、ロボットやドローンなどのデバイスとSNSの連動により、自動的に画像を配信できるようにすれば、農業者は特別な負担なく、消費者へのアピールをすることが可能です。

 Q スマート農業の普及やデータ活用の推進によって、日本の農業はどう変わっていくでしょうか。

 A 今後のスマート農業の普及により、ノウハウ活用や情報発信に積極的に取り組む農業者がますます活躍していくことになります。

 そうした姿は、農業の産業としての魅力のアピールにもなります。既に農業に携わっている人々はもちろん、これから農業を志す人や、農業に関心を持つ人を増やしていくことで、日本の農業の「復活」を支える大きな力が生み出されます。

 【筆者略歴】

株式会社日本総合研究所 創発戦略センターコンサルタント

前田 佳栄(まえだ よしえ)

1992年、富山県生まれ。2017年東京大大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修了(16年度農学生命科学研究科修士課程総代)。学生時代は植物を対象とするバイオテクノロジー関連の研究を行う。実家はカブの契約栽培を行う兼業農家で、夏休みなどに帰省し農作業に汗を流している。現在、日本総研農業チーム所属。

 

(KyodoWeekly9月2日号から転載)

新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ