8月の映画

 ★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

「アルキメデスの大戦」(7月26日公開)★★★

数学的な見地から大和の建造を描く

 戦艦大和の建造を巡るさまざまな事柄を、史実とフィクションを組み合わせて描いた三田紀房の同名漫画を山崎貴監督が映画化した。

 日本と欧米の対立が激化する1933(昭和8)年、大日本帝国海軍上層部は巨大戦艦の建造計画を打ち出すが、航空母艦の必要性を主張する海軍少将・山本五十六(舘ひろし)は、天才といわれる数学者の櫂(かい)(菅田将暉)を海軍に招き入れ、建造にかかる莫大(ばくだい)な費用を算出させ、巨大戦艦の建造を阻止することをもくろむ。

 本作は、オープニングで、いきなり1945(昭和20)年の戦艦大和の沈没を再現したスペクタクルシーンを映す。そして、時をさかのぼって、数学的な見地から戦艦の建造や構造を描き、大和と縁が深いイメージのある山本が、実は大和建造に反対していた、というユニークな視点から、男はなぜ大和のような巨大なシンボルに魅せられるのか、大和の建造は体面にこだわった海軍の愚行だったのか、というテーマを浮かび上がらせる。

 

「ライオン・キング」(8月9日公開)★★

“超実写版”として新たに登場

 偉大なライオンの王ムファサの息子としてアフリカの大地に生まれたシンバは、王座を狙う叔父のスカーの策略によって父を失い、王国から追われる。 

 1994年にアニメーション映画として製作され、97年には舞台化された物語が、アニメでも実写でもない、全てがCGで作られた“超実写版”として新たに登場。監督のジョン・ファブローは「ジャングル・ブック」でも、この手法を用いたが、今回は人間が一人も出てこないという点に新味がある。

 さて、「今またなぜ『ライオン・キング』なのか?」という問いに対して、ファブロー監督は「アイデンティティーの発見、生命の環といった普遍的な要素を持つ物語を、新たな媒体を使って表現することに興味があった」と語る。かつては、実写が困難とされた題材がアニメで作られたが、映像技術の発達もあり、今は、アニメで作られたものをCGを使って実写化するという流れがある。これも、ある意味“環”と言えるのかもしれない。

 

「ロケットマン」(23日公開)★★★

エルトン・ジョンの半生を描く

 「ボヘミアン・ラプソディ」の“影の監督”と呼ばれたデクスター・フレッチャーが、今度はエルトン・ジョンの半生を描く。

 ミュージシャンとしての天才的な才能、家族(特に父親)との確執、同性愛者としての苦悩、孤独、破天荒な私生活、仲間との友情とすれ違い、といった要素は「ボヘミアン~」のフレディ・マーキュリーの場合とよく似ているが、違いは、エルトンの薬物依存症の更生施設での告白から過去にさかのぼっていく点と、エルトンの名曲をミュージカルシーンとして描いたところ。

 つまりこの映画は実際のエルトンの半生を基にした一種のファンタジーなのだ。そして、フレディ役でアカデミー賞に輝いたラミ・マレック同様、エルトンを演じたタロン・エガートンが素晴らしい。歌も全て吹き替えなしだというからあっぱれだ。

 ただ「ボヘミアン~」のライブエイドに匹敵するようなクライマックスがない分、全体的な盛り上げを狙った演出過多が目立つところがある。

 

「やっぱり契約破棄していいですか!?」(30日公開)★★★

自殺志願者が美女と出会って…

 自殺志願の若者ウィリアム(アナイリン・バーナード)は、殺し屋のレスリー(トム・ウィルキンソン)と、1週間以内に暗殺してもらう契約を結ぶ。ところがウィリアムの前にキュートな女性エリー(フレイア・メイバー)が現れて…。

 本作の、自殺志願者が美女と出会って生きたくなる、という皮肉な設定は、これまでもさまざまな映画で描かれ、橋の上で自殺志願者が止められるという出だしは古典落語の「文七元結(ぶんしちもっとい)」にも通じるものがあるなど、決して珍しいものではない。いわば、ブラックユーモアを含んだシチュエーションコメディーとしては一つの典型だともいえる。

 本作の新味は“殺す側”にもドラマを持たせて二重構造とした点にある。ウィルキンソンが暗殺件数のノルマ達成に悩む、殺し屋なのに愛すべきおっさんを巧みに演じて映画に説得力を与えている。監督・脚本のトム・エドモンズは、この映画が長編デビュー作だが、今後に期待を抱かせる出来栄えを示した。

 

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(30日公開)★★★★

タランティーノ自身の夢や妄想を映像化

 もし、1969年のロサンゼルスに、落ち目のスターのリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と彼のスタントマンを務めるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)がいたら…。そして、リックの家の隣にロマン・ポランスキーとシャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が住んでいたら…という一種のパラレルワールド話を、クエンティン・タランティーノが虚実入り乱れさせながら描く。

 物語の骨子は、スターとスタントマンとの友情や信頼関係に、カルト集団のマンソン・ファミリーによるシャロンの惨殺事件の顛末(てんまつ)を絡めたもの。そこに映画狂で知られるタランティーノならではの、マニアックなネタが満載されている。

つまり、本作はタランティーノ自身の夢や妄想を映像化したものなのだ。そして彼がこの映画を作った最大の目的がラストに示されるのだが、それはここでは書けない。ただ、彼のハリウッドへの偏愛を感じさせる処理に、不思議な感動が湧くことは確かだ。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly8月26日号から転載)

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