「落語の森」廓噺

 落語の中に「廓噺(くるわばなし)」というジャンルがある。言わずと知れた「女郎(じょろう)買い」の噺。多くの噺家さんは、「じょうろかい」と言っている。その当時は、女郎買いが当たり前に行われていて演者も客も共感し合えたのだろう。現代の演者は、大変だ。廓の成り立ち、ルール、風情(ふぜい)を知識として知っておかないと演(や)れないからだ。

 さて、まずは「お直し」。これは、何と言っても古今亭志ん生師だ。体を売る女房と、その段取りをする若い衆を仕事にする亭主の噺。貧乏この上ない最下級の人間の悲哀を描いたこの噺で、志ん生師は1956(昭和31)年、芸術祭賞を受賞した。この時の師のコメント「女郎買いの噺に賞をくれるなんて、大臣さんも粋なもんだねェ」に世間は沸いた。

 「首ったけ」も志ん生・馬生師親子の噺。これに敢然と挑んだのが、落語立川流Bコース真打・立川藤志楼師(放送作家・高田文夫氏)、1990(平成2)年12月17日新宿朝日生命ホールの「藤志楼春夏秋冬」で大川興業・立川ボーイズ(立川談春・志らく)らを従えて時事ネタ満載のマクラから本題へ入り、当時たまたま東京支社勤務だったので、運よく客席にいられた単身赴任の筆者に腹を抱えさせ、笑わせてくれた。

 「三悪噺」の一つと決めつけた文化人・評論家に評判が悪かったのが「突き落とし」。勘定をもらいたい店の若い衆を、ドブに突き落とし逃げちゃうという乱暴な噺。若かりし日の立川談志・先代(五代目)三遊亭圓楽師は「何を言ってやんでェ、これこそが落語でぃ!」と以前から快く思っていなかった評論家・飯島友治氏にかみついた。

 「お見立て」は、笑いどころもたくさんあり、演り手が多い。桂歌丸師も手掛け、若手では、古今亭志ん陽師が田舎者木兵衛お大尽を楽しげに演じている。

 「粟餅(あわもち)」という噺がある。放送ではまず聴かないし、寄席(よせ)でも演らない。あまりにも汚い噺だからだ。この噺を当時二つ目で三遊亭ぬう生といった現圓丈師で聴いた。明治大学の落語研究会主催の「埋もれた噺を聴く会」。1970(昭和45)年、2年生の筆者は、ぬう生さんの前座として「狸賽(たぬさい)」を演った、講談の聖地、あの上野本牧亭で!

 「わら人形」、先代(八代目)林家正蔵師が、あの苦虫をかみつぶしたようなコワイ顔で演った。大概の廓噺は吉原が舞台だが、この噺は江戸幕府非公認の岡場所といわれた千住が舞台。ライター本田久作氏によると、この場合「廓」と呼ばず「宿(しゅく)」が正しいらしい。

 「紺屋高尾」、ロマンチスト談志師が「純愛」に真っ向から挑んだ名演が思い浮かぶ。一門の志の輔・談春・志らく師、それぞれの解釈でそれぞれの「紺屋高尾」を聴かせてくれ楽しめる。古今亭には「幾代餅(いくよもち)」というタイトルの同工異曲の噺がある。

 筆者、21歳のころに志ん朝師の「五人廻し」を演り、「羽織の遊び」は「笑点」で歌丸師とののしり合った三遊亭小円遊師の高座で覚えた。若気の至り、どうぞご勘弁を。

紫紺亭 圓夢(しこんてい・えんむ)

 

(KyodoWeekly8月26日号から転載)

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