解なき議論続く 五輪「便乗商法」

 

 7月末、待ちわびた梅雨明けの暑気にむせる都内で、ユニークなトークイベントが催された。お題は「オリンピック×知財~オリンピックは誰のものか~」。集まったのはスポーツ関係者というよりは、企業の広告・宣伝、商標などのブランド管理、知財や法務担当者など、どちらかというとお堅い感じの人たちという印象だった。

 1年後に迫った東京オリンピックをさらに盛り上げたい、でもスポンサー以外の者がオリンピックのマークや宣伝文句を無断で使ってはまずいよね、でも行き過ぎた規制は、せっかくの応援熱に水を差すよね、いや厳格な契約のもと、高額の協賛費用を拠出するスポンサー企業の権利を守るためにも一定のルールは必要では、だったらどこまでの表現なら許されるの―そんな、オリンピックには定番となった議論がイベント企画の出発点だ。

 アンブッシュ・マーケティングという言葉を耳にしたことがあるだろうか。英語のambushは「待ち伏せ」「不意打ち攻撃」といった意味。「マーケティング」とつなげて使うと、「国際オリンピック委員会(IOC)や開催国の組織委員会など公式な団体と、あたかも関連しているかのような広告表現を許諾なく行うこと」を表す。つまりはオリンピックに便乗した商法を厳しく取り締まるという文脈で使われる。実際、これまでも各開催国でアンブッシュ・マーケティングを規制する法律が制定されてきたという。

 「4年に一度の祭典を楽しもう!ブラジル&スポーツを渋谷で体験!」―あるフリーペーパーが3年前のリオデジャネイロ五輪の関連イベントに寄せて、アンブッシュとならないよう配慮した広告の一例だという。この問題に詳しく、トークイベントに登壇した友利昴(ともり・すばる)氏が紹介するや、会場からは失笑が漏れた。

 ほとんど連想ゲームに近い言葉遊びの世界だが、おそらくは担当者が悪戦苦闘した末にひねり出した苦肉の策で、肝心の広告効果以前に、どこか痛々しい。さらに「長野五輪のスキー場から歩いて15分のホテル」といった、単なる事実に言及した広告表現ですら、かつて違反だと警告を受けた例もあると友利氏。〝言葉狩り〟もここまでくると、少し怖い気がする。

 一方、「そもそも、オリンピックはみんなのもの、公のものという誤解が問題の背景にある」と話すのは、米国ニューヨーク州弁護士の足立勝氏だ。IOCであれ、国際サッカー連盟(FIFA)であれ民間組織であって、これらの大会が民間のイベントである以上、主催者の利益とこれを支える権利の保護、ビジネスモデルの維持は欠かせないという解説もまた正論だ。

 アンブッシュ・マーケティングの評価や線引きについて、おそらく明解な答えは出ない。ただこの問題を考える過程で、オリンピックの成り立ちや歴史を学んだり、運営組織と開催国や自治体、一般市民との関係を見つめ直したりといった作業は決してムダにはならない。できるなら、規制法という法律で縛るだけでなく、多くの人や企業の賛同を得やすく、機知に富んだ応援方法について幅広いコンセンサスが生まれるといいのだが。

(日本経済新聞社法務室 竹内 敏)

 

(KyodoWeekly8月12日・19日号から転載)


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