世界に広がれ!日本の箸文化 2本の棒の可能性

 おすしをつまむ、おかずを一口サイズに、魚の身を開く…。たった2本の棒からなる「箸」は、実にさまざまな機能がある。インバウンド(訪日外国人客)の増加で、箸を使う外国人の姿をよく見かけるが、巧みに使う人や「え?」と思う人もいる。このところ、箸づかいが不得手な日本人が目につくのも残念である。私たちの身近にある箸とは何か、マナーはどうあるべきか。埼玉県川口市の「国際箸会館」に向かった。

 

 会館はJR京浜東北線川口駅から徒歩約15分のところにある。3階建ての白い建物で2015年に完成した。運営するのは06年に設立した一般社団法人「国際箸学会」である。

 会長は、川口市内の業務用ミラー会社「コミー」の小宮山栄社長(79)だ。会員は実業家、会社員などさまざまで、総勢200人。

 会長は、国立大学を卒業後、いったん大手企業に就職したものの、3年半で退社。職を転々としてから東京都内で看板業を手掛け、その後、業務用ミラーづくりに専念。本業は順調という。

 

モノづくりにつながる

 

 箸学会を創設した会長は「箸を使う手をみて、5本の指すべてが動いていることに気づいた。箸を動かすのは人さし指と中指だが、親指は2本の箸をしっかり支え、もう一方の押さえは薬指。小指も薬指で足りない力を支えている。細やかな指先の動きはモノづくりにもつながる」と話す。

 会社の目の前にある箸会館1階には、世界各地の箸のアルバムがあった。広げると、東南アジアや日本の江戸時代の箸などびっしり。2階に上がると、国内各地でつくられた木製や竹製の箸約200点が並ぶ。会議室は、会員たちが集まって議論、市民向け講座にも使われる。

 学会のメンバーは、各地の小中学校などに出向いて出前授業、箸の「絵付け」や「ゲーム」を披露する。米国やカナダ、カンボジアなど海外遠征も。箸を使って1分間に何個殻付きピーナツを移動できるかを競うゲーム「箸ピー」。今年6月には、箸と5個のリングを使った「箸リン」というユニークなゲームを開発、米国の特許も得た。

 箸リンは、先端にゴムの付いた箸で、大小のリングを外側から「挟む」▽内側から「つまむ」▽内側から箸を開いて持ち上げる「開く」▽外側から挟んで横方向に裏返す「天ぷら」▽外側から挟んで縦方向に裏返す「でんぐり」の五つの技。

 直径2~6センチのアクリル樹脂リング5個を一つずつ、技を使いながらゲーム台紙に書かれた輪の位置に順番に移動させ、1分間に移せたリングの個数を得点として競う。すでに「デイケアセンター」などで試行を始め、評判は上々。「機能訓練の要素があり、レクリエーションの看板メニュー。楽しみながらやっています」と、さいたま市の女性理学療法士は評価する。

 

箸も水泳と同じ

 

 かつて箸学会主催の講演で、こんな話を聞いた。亀田総合病院(千葉県鴨川市)脳神経外科部長・田中美千裕医師は「箸づかいが脳を鍛える」とした上で「血管撮影でみると、親指、人さし指、中指、この三つの指に血管が集中。これは感覚が一番繊細で機能も多いということ。熱い、冷たいというのもすべてわかる。神経細胞の割り当てが最も多く、箸づかいは脳の進化にダイレクトに結びつく」と強調。

 言うまでもなく箸は、食べ物を挟む、切る、引き裂く、持ち上げる。古事記に登場し、神事にも使われる。2013年12月には、「和食」がユネスコ無形文化遺産登録となった。これは消えつつある伝統的な「食文化」を保護する意味があるが、「箸を使って食べる」という日本の食事の作法も含まれると聞く。

 最近、政治家や芸能人の箸の持ち方が不自然な姿がテレビに映し出され「それでも日本人?」「持ち方がおかしい!」とネットで揶揄(やゆ)する書き込みがあった。小宮山会長は「子どものころ、きちんとした箸の持ち方、使い方を覚えると忘れない。一度、泳ぎを覚えると、年を取っても泳ぐことができる。箸も水泳も同じである」と話す。

 あまり意識しないで使う箸の力は無限といえる。新たな技術や健康社会を生み出す可能性も秘めている。来年は東京五輪・パラリンピックが開かれ、多くの外国人がやってくる。世界に誇れる日本の「箸文化」をもっと発信できたら素晴らしい。

[筆者略歴]

フリーライター

長竹 孝夫(ながたけ たかお)

1953年生まれ。独協大学外国語学部ドイツ語学科卒。中日新聞(東京新聞)入社。東京本社社会部(警視庁、都庁、環境省担当)、特別報道部、前橋支局長、社会部次長兼論説委員(総務省、都庁など担当)、校閲部長、編集委員(オピニオン担当)など経て2018年12月退社

 

(KyodoWeekly8月12日・19日号から転載)

 


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