「口福の源」多様化する米の嗜好

 6月下旬から、北・東日本の太平洋側ではどんよりした低温の日が続き、各地で日照時間は平年の40%以下だった。7月下旬には九州北部を大雨が襲った。あまりの天候不順に、つい冷夏と日照不足で米が不作だった1993年が思い出された。

 当時、天明、天保以来の凶作と騒がれた。江戸時代には凶作が多く、なかでも享保・天明・天保は「江戸三大飢饉(ききん)」と呼ばれ、被害が大きかった。「徳川実紀」によると、享保の大飢饉(1732年)では、約97万人が餓死したという。14世紀から19世紀中頃までの地球は「小氷期」に入っていたため、江戸時代は現在より寒く、飢饉は冷夏が著しかった年に起こった。

 93年の凶作では、国産米の買い占めと売り惜しみが続出し、一時は店頭から米が消えてしまった。“ヤミ米”のコシヒカリ10キロに、1万円以上の値がついたほどだ。

 気の毒だったのは、緊急輸入したタイ米だった。粘りの強い国産のジャポニカ種に対し、インディカ種のタイ米は細長くて粘りがない。和食になじみづらい食味だ。そのうえ、さまざまな事情から輸出されたのは主食用の一級米ではなく、加工用の米だった。せっかく日本の要請にいち早く応えてくれたのに、「まずい」「臭い」「パサパサする」、はては「異物が混入して危険」などと、さんざんなバッシングに遭ったのである。

 一方で、タイ米の特徴を生かす調理法が、テレビや雑誌でさかんに紹介された。騒動をきっかけに、タイ米の本当のおいしさや、世界には多種多様な米があることに気がついた人も多かった。

 今日では、うってかわってタイ米ファンが増えている。とくに好まれるジャスミンライスは、炊くと何ともいえない豊かな甘い香りを発する特級米だ。白いご飯としてはもちろん、タイ風の炊き込みご飯にすると、いっそう個性が引き立つ。

 代表的なのが、「カオ・マン・ガイ」。かたまりの鶏肉を先に水でゆでておき、そのゆで汁で米を炊く。日本の炊き込みご飯とひと味違うコクが出る。ゆでた鶏肉は切ってご飯の具に、残ったゆで汁はスープにする。タイの味噌と甘口しょうゆに、トウガラシ、ショウガ、ニンニクなどを混ぜ合わせたタレをかけて食べる。タイでは高級レストランから食堂、屋台まで、幅広く供される国民食だ。決め手になるのがタレの味で、得意とする店は秘伝のレシピを持っている。

 日本でも専門店ができるくらい普及しているが、ジャスミンライスはスーパーや通販で少量から買えるので、タレには日本の調味料を使い、家庭でもかんたんに作ることができる。

 最近は、インドの香り米、バスマティライスを使ったインド風炊き込みご飯「ビリヤニ」の人気も上昇中。米に対してだけは保守的だった日本人の嗜好(しこう)が変わり、多様化してきたようだ。

(食文化研究家 畑中 三応子)

 

(KyodoWeekly8月5日号から転載)

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