「風のたより」速度とタイミング

 数年ぶりに福島県南相馬市小高(おだか)区を訪問した。原発から20キロ圏内に位置するこの地域は、福島第1原発事故後、風景が一変したことで知られる。

 事故当初は警戒区域として立ち入りが規制され、その後も居住制限区域ないし、避難指示解除準備区域として、主要道路における通過交通や住民の一時帰宅、インフラ復旧などの公益目的のための立ち入りなどは認められたが、宿泊は原則として禁止された。2016年7月の避難指示解除まで、ほとんど人けのない状態が続いた地域である。

 小高区の人口は激減する。震災前、11年の住基人口は1万2842人であった。だが、避難指示解除後の16年度末の市内居住人口は1488人となった。18年度末には居住人口は、3497人と少しずつ戻っているが、震災前の住基人口とは大きな隔たりがある。事業所数も3割以下にまで減少しているという。

 その小高区で活動する株式会社「小高ワーカーズベース(OWB)」で話を聞いた。「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」「予測不能な未来を楽しもう」というメッセージを掲げ、若者たちが多様な地域課題に一つ一つ取り組みながら、地域の再生に向けた事業を展開している。

 OWBが展開する地域のプラットフォーム構築型ビジネスは興味深い。小高区がまだ避難指示区域であった14年に会社を立ち上げ、コワーキングスペースをオープン、一時帰宅者や除染作業員の方々などの食事をする場所がないことから食堂をオープンさせる。

 翌15年には日用品の購入ができる仮設商業施設「東町エンガワ商店」をオープン、そして若い女性が楽しみながら働きたくなる環境を創出する場として「HARIOランプワークファクトリー小高」を設立、16年に工房とギャラリーを開いている。

 地域の中に灯(あか)りのともる場が創出されることで、つながりが生まれ、新たな活動が展開する。OWBは避難指示区域が解除される前から、小高区におけるその時々の地域課題に対応したビジネスを創出し、地域の人々が暮らしを営むための小さな経済の場を創出している。あのタイミングでつながりができたことで、帰還や事業再開を決めたというケースもあるようだ。

 事業撤退の速度と決断も潔い。食堂のにぎわいを知った店舗のオーナーが、営業の再開と帰還を決めるとすぐに食堂事業から撤退している。商業施設も、市の公設民営スーパー出店をきっかけに閉店した。

 行政が施策や事業を実現するまでには時間がかかる。民間事業者は、採算が見込めない地域には進出しない。OWBの取り組みは、経済循環の構築に向けて、行政や民間事業者では対応できないが、地域を次につないでいくために必要な事業を一つ一つ地域が再生する速度とタイミングに合わせて展開している。

 市が整備した「小高ストア」は、その後、民間大手スーパーの新規出店により、経営が危ぶまれているという。大手事業者は安定的に採算が見込めると分かればすぐに進出を決める。

 「市場」でも「政府」でもない、社会的企業による地域再生に、新たな可能性を垣間見た思いがした。

(東洋大学教授 沼尾 波子)

 

(KyodoWeekly8月5日号から転載)

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