「漫画の森」時として悩ましい

 ゆるくアルコールをたしなみたい向きには、ワインという存在は時として悩ましい。「シャトー・ラフィット・ロートシルト」と言われても呪文にしか聞こえない自覚があると、やはり二の足を踏みやすくなる。この題材に真正面から取り組み、豪快にうっちゃりを決めた快作が「神の雫」(全44巻、作・亜樹直、画・オキモト・シュウ/講談社)。ワインを巡ってバトルを繰り広げる斬新な設定で、絵の大人っぽさと情報のマニアックさに比べ、話とキャラは驚くほど親しみやすい。何よりも陽性で、「登場人物が狂うほど熱中している姿は見ていて高揚する」を改めて認識できる作品だ。

 高名なワイン評論家が遺した、ポエムともモノローグともつかぬ文章に示唆されたワインを探しだし、銘柄や製造年を当てるのみならず、遺言に負けない文学性でそのワインを「表現」してみせる。この常軌を逸した勝負に身を投じる2人の青年がいる。1人は著名評論家の息子、知識はからきしだが、門前の小僧ならではの技術と驚異の感覚をもつ主人公。対するは知識と経験のバランスがとれたこちらも天才のライバル。主人公に比べ控えめなインパクトを補うかのごとく奇矯な行動に出る。タクラマカン砂漠をさまよい、遊園地を借り切り、マッターホルンに挑んだかと思えばフルマラソンをはしご。すべてはワイン勝負の正解にたどり着くためだ。ちなみにフルマラソンとマッターホルン登山は主人公も実行。双方とも大真面目なのである。

 けれん味豊かに物語をけん引する対戦の合間に、主人公のワイン事業部従業員としての業務が描かれる。これが不思議に心を動かされるのだ。伊仏低価格帯ワイン対決では、イタリアワインファンの熱狂的な推薦の弁にフランス組は押され気味。それでもかかとをすり減らして探し歩き、ようやく「選手」がそろったものの、社員が試飲に尻込みし勝負が流れる危機にひんする。周囲との温度差にさりげなく触れることで、逆に弱小事業部の心意気が強調されるつくりだ。

 中華料理とワインのマリアージュに挑戦するエピソードでは「おいしいワインを探しだしてきた」だけではお客をつかめない現実に直面し、それでもめげずに香りや音といった直接的な刺激でアピールする。そのなんという実直さ。そして、高級ワイン以外に商品価値を認めない仕入れ先に対しては、「ワインは格付けで決まるような単純なものじゃない」と説得するため、五大シャトーと呼ばれるブランドワインにひけをとらない格下ワインを、同じ製造年で探しだす。当然ながら、気が遠くなるほど手間のかかる作業だ。事業部のスタッフたちは、テイスティングスクールの洗い場にもぐりこむなどして、汗をかきつつ目的のワインにたどり着く。芸術品のようなワインにはもちろん敬意を表するものの、全ては価格というわけではない。その趣旨のエピソードが繰り返し語られ、次第に彼らの情熱が伝染してくる。

 単行本巻末では「今夜使えるワイン談義」などと銘打ち、本編で語りきれなかった情報とネタが饒舌(じょうぜつ)に展開される。特筆すべきは10巻、11巻掲載の「B級マリアージュ」だ。素人目にも「やめておいたほうがいいのでは」と思えるつまみとの組み合わせ実験(カレーうどん、柿の種、納豆その他)が行われ、阿鼻(あび)叫喚と望外の喜びが交錯する。ワイン道は、いばら道までが明るく華やかだ。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly7月15日号から転載)

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