「本の森」天才と発達障害

岩波 明著

●254ページ

●文芸春秋(税別820円)

 

他者理解は難しい

 

 「器用貧乏」とは皮肉な言葉だが、現実を言い得ているのかもしれない。本書を読めば、歴史に名を残すほどの偉人たちは驚くほど「不器用」であったことに気付かされる。

 本書は精神医学的な見地から、天才が天才たるゆえんを解き明かす作品だ。著者は岩波明(いわなみ・あきら)氏で、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。野口英世、モーツァルト、アインシュタインなど、世界を変えるほどの偉業を成し遂げた彼らの才能はどこから生まれたのか、豊富な臨床経験と研究データを基に考察する。

 著者は、発達障害に特有の過剰な集中力、人並み外れた好奇心、常識にとらわれない柔軟な発想は、天才に必要な条件であると主張する。その根拠として挙げられるのは、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)などの特性を有していたと推定される人々の傑出した実績と、その名声からは想像ができないような不器用なエピソードである。

 例えば野口英世には発達障害(ADHD)の特徴があったという。野口は、ほぼ独学で当時の医学試験に合格し、ノーベル賞候補にも複数回ノミネートされたほどの高名な医者であることは周知のとおりだ。

 一方、宵越しの金は持たないとばかりに、友人から借りた金で非常識な豪遊をする計画性のなさや、同僚から「24時間仕事男」と呼ばれながらぶっ倒れるまで仕事をするなど、衝動的で大胆、過剰な集中といったADHD的特性が垣間見えるという。

 さらに、天才たちの個性的なエピソードと乗り越えた困難に着目すれば、天才たちの才能をいかに伸ばしていくかのヒントも得られるだろう。天才が才能を発揮するには周囲のサポートも必要と著者は語る。不器用な天才たちが才能を伸ばすにはどのようなサポートができるのか、凡人代表として考えたくなる1冊でもある。

 本書を読み進めるに連れ、天才への誤解が解けてくる。私たちは才能について大きく誤解をしているし、天才たちはその才能を認められるまで苦労するということだ。

 正直なところ、天才と確信できるような人は、これまでの人生で私の周囲にはいなかった。 ただ、本書を通じ、他者が天才かどうかは別にして、何かしらのレッテルを貼り、理解しようとしていたことに気づかされた。併せて、他者の隠れた才能を冷静な目で見つけたいと感じる。他者とは何かを考えることは、突き詰めれば、自分とは何か、という問いに行き着くのだろう。

(エッセイスト 鈴木 彩乃)

 

(KyodoWeekly6月10日号から転載)

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