空き家対策は“まちづくり”  ~尾道の取り組みから学ぶ

 

 人口減少・高齢化の影響で、全国の空き家が増え続けている。人の営みがなくなった家はあっという間に廃屋となり“まちの厄介者”と化す。1戸だけのはずが、いつの間にか街じゅうに点在するようになったら、その地域の活力は失われ始めているといえる。こういった空き家問題に国や地方自治体が対策を講じているが、単なる入居・移住促進では根本的な解決には至らない。大切なのは、地域住民自身によるまちづくりだ。

 

千光寺参道の急斜面に建つ「みはらし亭」。大正時代に建てられた別荘建築を、多くのボランティアの手によってゲストハウスに再生した=広島県尾道市(筆者撮影)

 2年半前、初めて広島県尾道市を訪れた私は、仕事の空き時間に散策に出掛けた。港には対岸の向島からのこぢんまりとしたフェリー、商店街にはぽつぽつと鮮魚売りの露店が並ぶ。斜面地に続く階段は、数分歩いただけで息が上がってしまうが、振り向けば瀬戸内海のマリンブルーが、優しい海風とともに癒やしてくれる。

 この景色に、多くの文豪や画家が魅了されたことにも納得がいく。何よりも、尾道といえば原田知世主演の映画「時をかける少女」をはじめとする、大林宣彦監督の「尾道3部作」。目の前の景色が物語とリンクするような、不思議な感覚に陥ってしまった。

 

4戸に1戸が空き家

 

 一方で、思い描いていたような活気が感じられない。線路脇の家にはかろうじて生活の気配がするが、海に面した山麓の斜面地にはかなり空き家が目立つ。尾道には昭和初期のレトロ建築が多く存在し、それが映画のロケ地として好まれる理由でもあったが、今は老朽化・空き家化が進んでおり、聞けば、斜面地の民家2千戸のうち、4分の1に当たる500戸近くが空き家だという。

 その背景には、斜面地の大半が借地で、所有者は周辺の寺院であるという、尾道ならではの特殊な事情があった。多くの物件が間口が狭かったり、敷地が道路に接していなかったり、建築基準法で定めている条件を満たしていないため再建築ができず、家を解体するにも300万~500万円という費用がかかるため、放置するか地代を払い続けた方が安く済むということも、空き家を増やす要因となっている。

 また、尾道市全体の高齢化率(2015年調査)は34・2%と全国平均(26・6%)を上回っており、さらに人口は国道沿いに集中していることから、斜面地の高齢化・人口減少は加速している状況だという。

 そんな故郷の状況に危機感を持ち、動き出したのが「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」代表理事の豊田雅子さんだ。県外で旅行会社に勤務していた豊田さんだが「いずれ地元・尾道で宿泊施設を営みたい」と考えていたところ、小さいころから憧れていた一軒家「ガウディハウス」(旧和泉家別邸)が売りに出ていることを知り、貯金をはたいて購入したところから活動が始まった。同ハウスの再生を行いながら、09年からは「尾道市空き家バンク事業」を受託。建築やアート、観光などのテーマを柱に、尾道建築の面白さや職人技を伝え、古い建築物を守り再生しながら新たなコミュニティーを構築し、尾道を活性化することを目指している。

 登録物件の大半は、老朽化し虫も多く、くみ取り便所(!)のままで、生活するには不便だが、そういった事情を納得できる希望者に対して、マッチングを進めているという。同時に、SNSやデザイン性を重視したフリーペーパーなど、若者世代を意識したPR活動を展開する。そこには、斜面地に住む高齢の住民の生活を手助けしてほしい、カフェやパン屋といった小商いを呼び込み経済的に地元を支えてほしい、という願いが込められている。

 こうした戦略が奏功し、30代を中心にこれまでに100人以上が尾道に移住し、店を開業した例も増えてきた。またNPOとしても、サブリース事業や古民家を借り受けてゲストハウスをオープンするなど、補助金に頼らない自立運営体制を確立。定期イベントを開催しながら“尾道ファン”を開拓するとともに、不動産業者や建築家、工務店、商店など地元企業とも連携し、地域住民に対しても、まちの魅力を再確認してもらうような取り組みを続けている。

 

穴埋めでは解決できず

 

 全国の空き家は18年調査で846万戸と、前回(13年)から26万戸増加した。多くの自治体では空き家対策としてマッチングサイトを立ち上げるとともに、補助制度を整備して移住促進などを行い、政府も住宅セーフティーネット法を改正し、高齢者やひとり親世帯など住宅弱者の住宅確保策として、民間賃貸住宅の空き家活用を推進している。

 しかし、空き家対策は単純な穴埋めでは解決できない。現地で生活をしていくには、経済的自立ができる土壌が必要だ。深刻な課題を抱えているのは、シャッター商店街だったり、高齢化が進んでしまった地域だったりと“まち”の機能が損なわれつつある場所。そういった場所に単に人を呼び込んでも、長続きはしないだろう。

 若者を呼び込み、商いを呼び込み、生活を定着させることは、言い換えれば地域の担い手を育てるということであり、受け入れる地域住民も、その重要性をしっかりと理解し認識することが必要だ。地域の人がまちをどうしたいのか、将来のビジョンを考え、周囲をうまく巻き込みながら波及させていくことの大切さを、尾道の取り組みは示している。こういった地域住民によるエリアマネジメント、まちづくりへの取り組みは、全国でも増えてきていることから、5年後、10年後には必ずその成果が表れてくるだろう。

[筆者略歴]

フリーライター

玉城 麻子(たまき あさこ)

 1972年生まれ、国学院大学法学部卒。地方紙や建築設備関連業界紙などを経て2008年に(株)重化学工業通信社入社。「石油化学新報」「アジア・マーケットレビュー」を担当。15年3月に独立

 

(KyodoWeekly6月10日号から転載)


PR特別企画
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証
TAFISAワールドコングレス2019

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ