主人公を応援し、仕事の活力に  漫画でエネルギーを補給

 

 今春、新社会人になった若者たちは、わずかひと月で元号が代わり、慌ただしい日々を過ごしていることだろう。仕事に慣れないまま、情報社会の渦に巻き込まれ、自信をなくしている人もいるかもしれない。そうした人に向けて元気と自信を取り戻す羅針盤となる作品を、拡大版「漫画の森」として紹介する。(編集部)

 

 新年度が始まってはや2カ月が過ぎた。変化と緊張に疲れを覚える時期かもしれない。そこで元気回復効果をにらみ数作品紹介する。

 「チャンネルはそのまま!」(全6巻、佐々木倫子/小学館)は、作者得意のお仕事コメディー漫画。ローカルTV局「北海道☆(ホシ)テレビ」の新人記者、雪丸花子が主人公だ。「バカ枠」という名誉不名誉相半ばする枠で採用された彼女は「元気」の一言では片付けられない意味不明の活性因子として職場に変容と混乱をもたらす。初仕事となった、スリリングと言えなくもない河川増水リポートはもちろん、街頭取材に繰り出す採用試験のくだりが破壊力満点だ。面接を打ち切らず「どこまでバカか見届けてやろう」とした採用担当の怖いもの見たさは、読者も共有するところだろう。

 ただ、単純な笑いに癒やされるのは2巻まで。3巻から地元のライバル局「ひぐまテレビ」が本格登場し、仁義なき視聴率競争を繰り広げる。「蛮勇たれ」「今日も一日弱肉強食」が社風のどう猛なひぐまテレビに、☆(ホシ)テレビは対抗しうるのか。花子はその奇跡のバカ性を保ったまま勤務を続けられるのか。「最終兵器」「ハイリスクハイリターン」と他局に評される彼女を中心に、物語は怒涛(どとう)のエピローグになだれ込む。

 本作は今春、北海道テレビ放送開局50周年ドラマの原作となった。余談だが関東キー局で放映されないことが残念だ。

 「あさドラ!」(既刊1巻/浦沢直樹/小学館)は、さすがの浦沢ワールドらしく、幕開けから安定感と予測不可能性が巧みに同居。「主演女優」を務めるのは名古屋在住の少女、アサだ。子だくさんの一家に生まれ、大人たちにしょっちゅう名前を間違われるが、くさるでもなく達者な名古屋弁でくるくるしゃべり、幼いながら堂々と物語をリードする。1巻の主な舞台は昭和34年の伊勢湾台風被災地だ。精緻に描き出された惨状や、アサのとる行動一つ一つが、平成の大災害を経験してきた読み手の胸にこたえるのではないか。

 若手女優でも有名子役でもない、この作者のキャラクターが朝ドラを演じてくれていることににんまりするが、実際にアサを主役にして国営放送番組をつくるのはやや難しいかもしれない。現段階で「人間」ドラマにとどまらないであろう超展開が色濃く示唆されているからだ。作者の新たな代表作の予感に期待がふくらむ。

 「凪(なぎ)のお暇(いとま)」(既刊5巻、コナリミサト/秋田書店)は、人間関係に行き詰まり、会社を退職した28歳女性の物語。社会と最低限の関わりを保ちつつ引きこもるという、高等戦術に打って出たヒロイン・凪の悪戦苦闘が、ふんわりとしたイメージイラストを思わせる絵柄でコミカルかつ情け容赦なしに描かれる。

 バイタリティーなるものをいったん否定するところから始まる話だが、いざ身一つになって生きようとしたときの、凪の節約術は存外たくましい。「先を思うと震える」ことに変わりはないが、自己評価が低いわりに不思議と人間関係以外のところではあまり悩まないのだ。

 ハローワークで出会った友人候補の女性にはパワーストーンの購入を勧められ、必死の思いで振り切ったモラハラタイプの元カレには追いすがられ、新しい扉を開けたと思うと閉ざされる日々が続く。

 一方で「幸せの青い鳥はスーパーでパック売りされている」と供されたスナックのまかない焼き鳥丼の味をしみじみかみ締める。「自分なんか全然主人公じゃないのに」と思い込んでいるヒロインの右往左往を、ほろ苦く応援したくなる作品だ。

 「ヴィンランド・サガ」(既刊21巻、幸村誠/講談社)は、タイトルが示すように11世紀ヴァイキングによる北米移住がテーマ。入植を主導したとされるトルフィンが主人公だ。

 歴史漫画だが、想像力を駆使した人物設定と表情の豊かさで堅苦しさとは無縁。あらゆる角度から人間をとらえるアクション場面は見事の一言だ。時代ならではの残虐な戦闘と人権意識の希薄さもごまかさずに描き、一方でシリアスなストーリーをかいくぐってまめに投入されるギャグが物語の善性を担保する。現在トルフィンは、狂戦士めいた過去を拭い去り堅気になろうとするも、周りが放っておいてくれず、やむを得ず戦闘能力を発揮する事態が頻出。王道の熱い展開だ。

 主人公の成長を描くといえば単純だが、本作には時間をかけて一歩一歩描き進んだ作品のみが持つ説得力がある。トルフィンを含めた主要キャラの、少なからぬ人命の懸かった岐路に打ちのめされてきたからこそ、成長の一言が上滑りしないのだ。

 単行本巻末には一行の航跡地図が添付され、カバーの袖に遊び心あふれる作者コメントが掲載されるていねいなつくりだ。トルフィンが仲間を増やし、ヴィンランドに到着するまでの長い旅程に、同行できる幸運を味わいたい。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly6月3日号から転載)

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