「陸海空の現場~農林水産」食を支える種苗育種の変化

 農作物の育種は食料の増産や安定的な確保を目的として、野生種や在来種を改良してきた歴史であり、自然界から偶然見つけた有用な形質を持つ個体(変異体)を選抜し、増殖するプロセスから始まった。

 近年ではそれら変異体を掛け合わせることによって、望ましい形質を栽培種の中に集積する交雑育種法が育種技術の主流となっている。放射線や化学物質を利用して変異体を人工的に作出する突然変異育種法も開発、利用されており、育種技術は高度化している。

 長年にわたる育種技術の開発と品種改良の努力が、農業の生産性向上や、より安全で良質な食料の安定的な供給、さらには世界の食料安全保障に大きく貢献している。現在、日々食べられているほぼすべての穀類や野菜、果実は、こうした品種改良の結果として生み出されてきた植物となっている。

 食を根底で支える種苗市場で近年、“新しい植物育種技術(NBT=New Plant Breeding Technique)”が注目されている。特に注目度が高いのは「ゲノム編集」による育種である。

 植物の形質や特性をつかさどるのは植物体にある遺伝子で、その実体がDNAであり、DNAを構成する塩基、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)およびグアニン(G)の組み合わせ(塩基配列情報)の違いであることは広く理解されている。

 ゲノム編集とはDNAの狙った場所を変異させる技術であり、特定の核酸分解酵素によってDNAの一部を切り取り、ある性質を消し去ったり、切り取った後に塩基配列を変えたものを入れ込むことで、特定の性質を強くしたり弱くしたりする技術である。

 こうしたNBTを用いることで、何世代も交配を重ねる通常の育種方法では10年かかる新品種の開発期間を、3分の1以下に短縮できるという。

 既にゲノム編集技術を利用した、収穫量の多いコメや、ソラニンなど天然毒素の少ないジャガイモ、健康機能性成分「GABA」を多く蓄積するトマトなど、生産者、消費者の双方に有用な品種改良が進められている。

 厚生労働省がゲノム編集で開発した一部の食品は従来の品種改良と同じであるとして、同省の安全審査を受けなくても届け出だけすれば流通を認める方針も打ち出した。「遺伝子組み換え作物はよくないもの」というイメージが消費者に根強い日本においても、生産性が高く、新しい機能性を持つ農作物の供給が広がっていく可能性がある。

 ただ、他の生物の遺伝子が入る従来の遺伝子組み換え作物との違いなど、正しい情報を伝えるための食品表示の在り方も含めて課題も残されており、消費者への丁寧な説明を進めていく必要がある。

(矢野経済研究所 フードサイエンスユニット

理事研究員 清水 豊)

 

(KyodoWeekly5月27日号から転載)

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