「風のたより~地域経済」森のようちえん

大人も子どもと一緒に自然を見つめる=2017年6月17日、三重県大台町

 「カニ、おる!」声だけは威勢のいい3歳児の足元では、カニが小さなハサミを振り上げている。つかみたいけど、怖くてつかめない。手元には滝のしぶきがかかり、こけむした岩に白や緑の小さな花々が咲き、川トンボがとまるシダの新芽がまぶしい。三重県大台町のこの美しい里山で、10年ほど「森のようちえん」をしている。

 生き物探しのほか、羽釜を使ってまきでご飯を炊いたり、冒険をしたり、池の畔で過ごしたり、子どもたちの興味に寄り添って共感することを大事にする活動だ。

 森のようちえんは「園舎を持たず、幼児を毎日森に連れて行く幼稚園」という、北欧諸国で1950年代に始まった活動が発祥であると言われる。日本でも同様の活動が80年代から起こり、近年、日本各地で急速に支持され、拡大してきた。当校でも、キャンセル待ちが何十人も出るほど人気がある。子育て世代が自然に目を向けてくれるのは大変うれしい。

 自然の中で子どもたちが喜んで繰り返す体験は決まっている。火を扱う、水に入る、生き物や食べ物を探す、ものを作る、探検する、そして挑戦することだ。原始から人間が生きるために必要だった行為を、飽くことなく連綿と遊びを通してやり続けようとしている。どれだけ文明が発展しようとも、人間の本質や本能は容易には変化しないのだろう。

 昔の暮らしでは煮炊きにまきで火を扱い、川や海に潜って食料を捕り、刃物を使って創意工夫し、野山をくまなく歩き回っていた。生きることが今よりずっと厳しい時代だったろうが、生きている実感は十二分だった。だが今、都市で生まれ育った子の中には、炎を見たことがない、土の道を歩いたことがないという、極端に自然からかけ離れた暮らしをする子らが出現しているという。

 高度成長期前には当たり前だった、自然をよりどころにする暮らしを知る世代がいなくなり、子育て世代はもちろん、その親の世代でも自然に親しんで暮らした人が少なくなった。同時に、自然の中に行くサービスにお金を払う時代がやってきた。森のようちえんや、自然体験が仕事として成り立つ背景には、自然から切り離され心のどこかがくすぶり続ける世代の存在と自然への憧憬(しょうけい)が見え隠れする。

 最近では子どもだけではなく、大人もキャンプなどで自然体験を楽しむことがブームである。現代の都市に暮らす人々がしたいこともやっぱり、生きている実感を本能的に感じて、生きる自信をみなぎらせる行為なんだと改めて実感する。

 地域社会の価値を経済の尺度以外のもので測る方法はいくらでもある。

(NPO法人大杉谷自然学校校長 大西 かおり)

 

(KyodoWeekly5月27日号から転載)

PR特別企画
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証
TAFISAワールドコングレス2019

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ