「口福の源~食料」おいしさは千差万別?

しょうゆの地域特性に関する研究のレポートを掲載しているセンター機関誌

 皆さんはおいしいものを食べた時、どのようなことを考えますか。「もっと食べたい、もう一度食べたい」というのももっともですが、誰かに教えてあげたくなるのではないでしょうか。家族や友人、同僚にこのおいしさを伝えて、共有したいと考える人も多いのではないでしょうか。おいしい体験はコミュニケーションのきっかけでもあるのです。しかもおいしいものに関する話題はポジティブな関係をもたらしてくれます。

 一方でこんな経験もあるのではないでしょうか。自分は本当においしいと思ったものが友人にはそれほど感動してもらえなかった。逆においしいといって勧められて食べてみたけれども、そうでもなかった。味覚というものは意外と個人による差が大きい感覚なのかもしれません。では、その違いはどのように生まれてくるのでしょうか。

 キッコーマン国際食文化研究センターでは、2014年を起点に「しょうゆと郷土料理」「しょうゆの地域特性と形成要因」という一連の調査、研究を実施しました。調査の過程で見えてきたのは、地理的な立地、商流、農産物や海産物、産業、交通など人の往来…。さまざまなファクターが関与して食習慣の地域区分が形成され、地域の嗜好(しこう)として定着してきたということです。

 例えば、同じ岐阜県でも、県北部の飛騨地方と県南部の美濃地方でそれぞれ独自の生活圏、食文化が形成されています。江戸時代には幕府直轄領であり、富山など日本海側との交流が盛んだった飛騨地方は、京都に近い味付けの嗜好である一方、木曽川を通じて桑名、名古屋と交流の深かった美濃地方は、たまりしょうゆや郡上(ぐじょう)みそを使うことからも分かるように、しっかりとした味付けが好まれる傾向が見られました。

 また、江戸中期から明治期にかけて重要な物流手段であった北前船の寄港地である日本海沿岸の各地では、甘口のしょうゆをベースとした料理文化が共通して見いだされ、嗜好の広がりを思わせます。

 このようにそれぞれの地域の生活圏形成の過程で調理法や味付けなど食習慣の共有や分化が進み、時代を経て地域の味覚として受け継がれてきたのです。

 もちろん、実際にはもう少し複雑で、個人の味覚はその人特有のものです。しかし、その人が育った家庭は同じ生活環境の中で、一緒に食事をすることによってほぼ同じ味覚を持っているといえます。そしてその家庭がある地域は、家族ほどではないにせよ、似通った食習慣や嗜好を共有している可能性があります。それが現在、いわゆる郷土料理と呼ばれるようになった地域的食習慣を形成したのでしょう。そして、その食習慣の中で育つ世代に受け継がれてきたのです。

 情報化の進展、交通網の発達などにより、食の地域特性は薄まりつつあります。最大公約数的なおいしさを共有することから少し視点を変えて、嗜好の違いを相互理解のきっかけにしてみてはいかがでしょうか。そのためにも郷土の味、家庭の味にいま一度目を向け、自身の味覚を意識してみるのもおもしろいかもしれません。

(キッコーマン 国際食文化研究センター 山下 弘太郎)

 

 (KyodoWeekly5月27日号から転載)


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