「はじめの一歩」~日本の農業① 復活の兆し、進むスマート化

 日本の農業が「復活」の兆しを見せている! 富山県の農家で育ち、農業専門の女性研究員が、最新の現場を分析するとともに、日本の農業がこれから成長するために、グローバルな視点で「次の一手」をどのように考えたらよいかなどを解説する、「はじめの一歩」を3回シリーズで掲載します。(編集部) 

 

 Q 日本の農業に「復活」の兆しが見えているそうですね。

 A 一時期は衰退産業とも言われていた日本の農業は、近年は成長産業の一つとして「復活」し始めており、新たな時代を迎えています。

 Q 具体的にはどのような動きがありますか。

 A ここでは、日本の農業の「復活」を示す三つのデータをご紹介します。一つ目は日本の農業産出額です。1984年をピークに徐々に減少傾向にあった農業産出額は、2014年以降V字回復の兆しを見せており、17年まで3年連続で農業産出額が上昇しています。17年時点の総額は9兆3千億円と、2000年ごろの水準まで回復しています。

 二つ目は農林水産物・食品輸出額です。12年以降6年連続で上昇傾向にあり、18年の輸出額は9068億円に達しています。政府は19年の農林水産物・食品の輸出額1兆円を目標に掲げており、目標達成が視野に入ってきました。

 三つ目は新規就農者数です。最近は、若い世代の新規就農が進んでおり、17年の49歳以下の新規就農者数は2万760人で、4年連続で2万人を超えています。農業以外にも機械工学やITを専門とする人材や、他職種での経験をもつ人材が増加し、経営感覚のある若い世代の農業者が活躍しています。

 Q 日本の農業の競争力はどこから来ているのでしょうか。

 A 日本の農産物は高品質・高付加価値を特徴としています。例えば、高糖度トマトや、甘味と酸味のバランスのとれた濃厚な味わいのイチゴのように、味にこだわりのある商品が近年人気となっています。ブドウやモモといった果実では、贈答用として色つや、形、味、香りを高めた商品が世界トップクラスの商品として認められています。インバウンド(訪日外国人客)でも需要があり、輸出も好調に推移しています。

 このような高品質・高付加価値な農産物を生産するノウハウは、日本の農業者が長年の試行錯誤を通じて確立してきた日本の農業の宝であり、世界にも通用する農産物を生み出す源泉となっています。

 Q 競争力を高めるためにはどのような課題を乗り越えていく必要がありますか。

 A 日本の農業が直面する課題は二つあります。一つ目は労働力不足です。日本の農業就業人口は18年で175万3千人であり、日本総研の試算では35年には100万人を切ると推計されています。人口減少は日本全体にわたる問題であり、農業においても生産性の向上は不可欠です。

 もう一つの課題は高齢化であり、現在の農業就業人口の平均年齢は66・8歳となっています。農作業の体力的負荷の軽減などにより、長年の経験をもつベテラン農業者も営農を続けられる環境整備が必要です。

 また、ベテランの農業者が蓄えてきたノウハウをどのように伝えていくかも、日本の農業の競争力の維持・向上のために向き合うべき課題です。

 Q 課題解決に向けた新たな技術の開発・導入が加速しているそうですね。

 A 近年、IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)、ロボティクスなどを活用したスマート農業が注目を集めています。スマート農業の導入による作業の自動化や省力化を通して、農業就業人口の減少による労働力不足を補うことができます。体力的負担の軽減によって、高齢者や女性、体の不自由な人でも働きやすい環境となる点でも期待されています。

 また、さまざまなデータの解析を通じ、ベテランの農業者のノウハウを可視化することによって、安定的に高品質・高付加価値な農産物を生産できるようになります。日本の農業の競争力の源泉であるノウハウを確実に継承していくために、スマート農業は必須の技術です。

自動運転トラクター 内閣府「SIP次世代農林水産業創造技術」での自動運転トラクターの実証事業の様子。オペレーターが手前と奥の2台のトラクターを同時に操作している=2017年、日本総研撮影

 Q 昨年放送されたテレビドラマでも自動運転のトラクターが取り上げられていましたね。

 A 自動運転トラクターは、18年度に農業機械メーカー大手3社の製品が出そろいました。これらは、オペレーターの監視の下で、無人での自律走行を行う製品です。これまでは1人で1台のトラクターを操作していましたが、自律走行によって、1人で複数台のトラクターを操作することが可能になれば、農業者1人当たりの生産性が2倍、3倍と飛躍的に向上します。農業就業人口が減少する中で、現状の経営面積を効率的に管理するために、有用な技術となっています。

 Q 自動運転トラクターに対する農業者の反応はどうですか。

 A 以前に発売された製品では、使用者が搭乗した状態で直進走行などの一部のハンドル操作を自動化する機能が搭載されており、こちらは現場での導入事例も増えています。実際に製品を利用する農業者に話をうかがうと、「直進走行機能だけでも便利」「新規就農者でも作業が簡単にできる」という前向きな声が多く聞かれています。今回発売された自律走行のトラクターに関しても、農業者に受け入れられ、広く普及していくと見込まれます。

 Q 直進走行機能に関しては、どういった部分が評価されたのでしょうか。

 A 直進する際に左右にずれてしまうと、その分、重複して作業する面積が増えてしまい、作業効率の低下につながります。

 例えば、田植え機の場合、田植え直後の水田をいくつか見てみると、苗がきれいに整列しているものと、左右にずれているものがあります。簡単に見える直進操作であっても、ベテランの農業者と新規就農者では作業の仕上がりには大きな差があります。直進走行機能は、作業の重複防止による生産性向上や、操縦者の負担軽減の点で評価されています。

センサー 栃木県茂木町にて設置している土壌センサーと簡易気象計(ベジタリア製)=2018年10月、日本総研撮影

 Q モニタリングに関する技術はどうでしょうか。

 A 簡易気象計や土壌センサー、水田の水位センサーなどの導入が進んでおり、農業者は自宅や外出先でもスマートフォンやタブレット端末を用いて、リアルタイムで設置場所のセンサーの情報や画像を確認できるようになっています。現場まで足を運ばなくても、手元のデバイスで状況を確認できるため、見回りにかかる手間が削減されます。

 Q ドローンでのモニタリングも話題になっていますね。

 A ドローンでは各種カメラを搭載して上空からモニタリングする方法が普及しています。マルチスペクトルカメラを用いて、人間には見えない波長の違いを基に、作物の生育状況やクロロフィルなどの成分含量を可視化するほか、病害虫の発生を予察する技術も発達しつつあります。ドローンは、一度に広範囲を撮影できるため、大規模経営の場合や複数の離れた箇所のモニタリングに適した技術です。

センサーデータの表示アプリケーション センサーによって測定したリアルタイムデータを表示するアプリケーションの画面(ベジタリア製)。栃木県茂木町の3カ所に設置したセンサーのデータを表示している=2018年10月、日本総研撮影

 Q モニタリングにより作物や環境の状況が分かると、どのようなメリットがありますか。

 A これまでは、ベテランの作業者であっても作物の状態や、肥料散布履歴などから長年の勘を基に判断して作業をしていました。モニタリングデータによって、生育のばらつきや、肥料不足などを定量的に把握することが可能となり、適切なタイミングで過不足なく作業ができるようになりました。生育状況に応じて与える肥料の量を変える可変施肥の技術によって、実際に収量が向上した事例もあります。

 Q モニタリング以外にも農業のデータ活用の動きはありますか。

 A 農業者は播種(種まき)や定植(苗の植え付け)などの作業の日付の記録や、出荷時における農薬や肥料散布の種類や回数の確認のために作業日誌をつけています。従来の紙媒体の作業日誌をIT化した、栽培管理アプリケーションが普及しています。アプリ上では過去の栽培履歴の確認や経年比較が簡単にでき、農機やロボットを使った作業内容を自動で記録する機能を利用すれば記録の負担が軽減されます。複数人での記録・閲覧もできることから、作業状況や病害虫発生箇所の共有にも最適です。

 Q 今後の日本農業の競争力強化に向けて、スマート農業の普及によりどのようなことが期待されますか。

 A スマート農業の導入により、作業の自動化や省力化による労働力不足の解決と、データ解析を通じたノウハウの可視化による収量や品質の向上の両面に期待が集まっています。前者については、自動運転トラクターのようなハードウエアの導入により、課題解決の糸口が見えてきました。後者については、手軽に使用できるスマホアプリなどの普及を推進し、アプリの利用を通じて蓄積されるデータから抽出したノウハウを基に、技術面や経営面で農業者をサポートするデータサービスを強化していくことが重要です。

 日本の農業は、栽培ノウハウという世界でも類のない優れた宝を十分に活用できていない状況にあります。グローバル市場でも日本の農産物の価値が認められつつある今、ハードウエアとソフトウエアの両面から強固な基盤を構築し、ノウハウの活用や継承、さらなる向上を進めていくことが、世界に通じる日本の農業の競争力を確立するための次の一手となります。

【筆者略歴】

株式会社日本総合研究所 創発戦略センターコンサルタント

前田 佳栄(まえだ よしえ)

1992年、富山県生まれ。2017年東京大大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修了(16年度農学生命科学研究科修士課程総代)。学生時代は植物を対象とするバイオテクノロジー関連の研究を行う。実家はカブの契約栽培を行う兼業農家で、夏休みなどに帰省し農作業に汗を流している。現在、日本総研農業チーム所属。

 

(KyodoWeekly5月27日号から転載)

 

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