「風のたより~地域経済」限られた人材の有効活用を

 安倍政権の政策の柱の一つに、地方創生がある。2014年には担当大臣を置き、「まち・ひと・しごと創生総合戦略(以後、地方創生戦略)」を策定した。防衛、農林水産各大臣を歴任してきた石破茂氏を担当相に据えたことからも、安倍政権の当時の力の入れようが推し量れる。

 地方創生戦略の基本コンセプトは、東京への人口の一極集中に歯止めをかけ、「地方への新たな人の流れを作る」というものである。

 背景には、わが国が50年後にも1億人の人口を維持するためには、東京よりも出生率の高い地方に若い世代が暮らした方が良いという考え方がある。毎年1千億円以上の予算を確保し、地方創生交付金として地方に分配してきた。そうした交付金を基に、各地で移住者誘致を競うような定住人口の増加を図る取り組みが進められた。

 地方創生戦略では、14年に11万人だった東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の転入超過人数を、20年にゼロにすることが、最も重要な数値目標と位置付けられたが、その達成は極めて困難な状況にある。

 東京圏の転入超過人数は、15年以降12万人程度で推移した後、18年には13万6千人と前年比13%増となった。巨額の交付金にもかかわらず、地方への新たな人の流れは、生まれていない。

 若い世代の地域間移動に最も影響を与えるのは、地域ごとの経済的な活力の差異である。人は、仕事や、より高い収入を求め経済活力のある地域に流れる傾向にあり、過去には、それがわが国の経済に好循環をもたらしてきた面は否定できない。

 戦後、わが国が経験した高度経済成長の背景には、農村部から大都市に向けた団塊の世代のダイナミックな人口移動があった。

 公共事業のような政策によっても人の流れが変わることがあるが、これも経済活力のある地域に向けた人の移動にほかならない。

 バブル崩壊後の景気対策として、公共事業費が例年の倍近くまで増やされた時期には、東京圏は出ていく人の方が多い転出超過となったが、これは公共事業費の多くが地方で執行され、相対的に地方の景気が良くなったためである。

 

パイの奪い合い

 

 地方創生戦略が動きだした14年以降、景気の堅調な推移と生産年齢人口の減少が相まって、人手不足が全国に広がった。

 なかでもわが国の景気をけん引する東京の人手不足は深刻で、大企業が好条件で若い世代の積極採用に動いたため、東京圏の転入超過人数が押し上げられている。

 わが国全体で、若い世代の減少が今後も続くことを踏まえれば、そもそもすべての地方が定住人口を増やそうという政策には合理性が見いだせない。各地域が若い世代という限られたパイを奪い合うような地方活性化策からの脱却が必要である。

 それぞれの地域が、新しいテクノロジーを積極的に導入し、限られた人材を有効活用することによって、生産性を高めることに活路を見いだしていくことが、人口減少に向かうわが国で経済発展を維持するために欠かせない地方創生の戦略ではないか。

(日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 藤波 匠)

 

(KyodoWeekly5月20日号から転載)


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