「風のたより~地域経済」ローカルな経済とつながる

 先日、宮崎県日之影町を訪問した際、道の駅で何気なく購入した「柚子(ゆず)のシロップ」がたまらなくおいしかった。紅茶に入れてもお湯で割っても、豊かな風味と味わいが見事だ。パッケージも美しい。

 再度購入しようと考え、アマゾンや楽天で商品検索をかけるもヒットしない。生産者の名前を頼りにウェブで検索をかけると、ようやくこの商品は、地元の農家が丁寧に育てたユズを原材料に、限定生産されたものだと分かった。

 ユズ畑の写真が見事で、年末のユズの時期に再訪する気になっている。グローバル化の時代であっても、ローカルな経済活動は、こんなふうに在り続けるのだと気づかされた。

 今の時代、大手ショッピングサイトやコンビニを利用すれば、さまざまな商品がすぐに手に入る。サプライチェーンは全国、さらに全世界へと広がっており、より良いものをより安く生産するための効率的な生産・流通網にのって、多くの商品が消費者に届けられている。たとえ農産物であっても、安定供給体制がとられており、見栄えのよい商品が店舗に並ぶ。

 地元の生産者や事業者もまた、こうした全国的な生産・流通網と無関係ではいられない。地元の酒屋や本屋はコンビニへと姿を変える。全国展開する企業の進出により、どこの都市の駅前も似たような店が並ぶ風景へと変貌をとげた。

 他方で、人口減少により商圏規模が採算ラインを下回る地域にはチェーン店は出店しない。大手流通網とは異なる、閉鎖的な関係のなかで商いが行われる地元商店や農産物直売所、そして、小規模生産者などによるローカルな経済活動は、大手資本にのみ込まれてしまうのではないか、とさえ感じることもある。

 だが、そんな効率性の論理には振り回されず、地域の自然や生活環境のテンポで経済活動を営む動きはしっかりと在(あ)る。

 その土地にしかない自然資源、文化や風土に根差して育まれた技術や知恵は、希少性をもつ。季節限定、地域限定、生産者限定で作られた商品は、全国展開された流通網には乗りにくい。それらは、自然と人々のつながりの中で、地域の風景や物語を構成しながら、絶対的価値を持つ。

 資本は巨大市場をつくり出し、世界を均質化の方向に促す。どこに行っても似たような商品が手に入る世の中である。

 しかしながら、世界には実に多様な気候・風土に根差した文化、暮らしがあり、それぞれに独自の姿がある。その差異に触れ、違いを楽しんだり、その土地における顔の見える関係のなかで交流したり、暮らしを楽しむ人も増えている。

 グローバルIT企業の「GAFA」をはじめ、ビッグデータを駆使したネットワーク網は、世界を均質化する方向に力を持ちうるが、同時に多様で小さな地域の物語を世界に伝え、人や地域をつなぐコミュニケーションを支える力にもなる。

 情報通信技術(ICT)はローカルな経済活動をどちらの方向に導くのか。そして、ローカルな経済が地域固有の輝きを保ちながら外部とつながり、その価値を守り続けていくにはどんな仕組みが必要なのか。そんなことを考えながら、ユズ紅茶をすすった。

(東洋大学教授 沼尾 波子)

 

(KyodoWeekly5月13日号から転載) 


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