「陸海空の現場~農林水産」ソンタク外交ではもたない日本農業

 平成の流行語に「忖度(そんたく)」なる言葉があった。もうあまり出番はないと思いきや、ここに来てまたしても予感させる場面が到来している。

 4月から始まった日米二国間の貿易協定交渉だ。16日にワシントンで開かれた閣僚協議では農産物と自動車が焦点になっていることが明確になった。「米国第一」を掲げ、どう喝発言もしばしばのトランプ大統領に、歴代首相の中でも際立つ「従順さ」を見せる安倍晋三首相。「もしここで大統領にミエミエの忖度をすると、政権の行方に影響も」と7月の参院選を前に、地方議員だけではなく胸中穏やかではない。

 今回の交渉、米側の貿易赤字解消が目的としながら環太平洋連携協定(TPP)からトランプ大統領になって一転、一方的に離脱。その結果、新協定のTPP11や欧州連合(EU)との経済連携協定の発効で、日米交易が不利になった米国内畜産業界などがその解消に交渉推進をせかしてきた。

 米側は「日本が修正に応じるのは当然」とばかりに「悪くてもTPP並みの関税引き下げか撤廃。できればそれ以上」の交渉。対して日本は「(譲るばかりで)得るものはない」(農業団体)となる。特に国内農業サイドには昨年末のTPP、2月の日EU協定の発効で早くも新たな輸入攻勢が始まったばかりの事情がある。

 すでに二つの協定による国内市場への影響を懸念する声は当然ながら大きい。

 日本政府は「体質強化策で農家の所得は維持される」(2017年12月)といい、両協定による生産額減少は最大2600億円程度と試算(同)。ただ最近の統計不正問題もあってか「かなり恣意(しい)的な計算」といぶかる声が多い。

 そして、今回の米国との交渉。ここで「TPP以上」などという米国の要求を飲むことにでもなれば「日本農業は壊滅的打撃。地方経済や地域社会の維持もおぼつかない」(大学研究者)との指摘が現実味を帯びる。TPP絡みでは遺伝子組み換え食品や安全をチェックする通関手続きの簡素化など食品の安全性問題も含み、消費者も安閑としていられない。

 日米の農産物交渉の歴史を見れば、常に難題を打ち掛けるのは米国。経済と安全保障を依存する米国に最後は押し切られるという構図で、農業団体は反旗をあげ、与野党議員を扇動しても最後は深い敗北感を味わってきた。

 その上、今度の相手は貿易赤字を「世界がアメリカをだまして盗んだ結果だ」とすごむトランプ大統領。対して自民党は「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない」と総選挙で主張し、米国に行けば議会で「以前、ガット農業交渉で自分も自由化反対運動をしたが間違いだった」(15年4月)とリップサービスした安倍首相。この2人の性格を思うにつけ、農業関係者ならずとも心が重くなろうというものだ。

 財務省統計によると、18年の対米貿易収支は6兆4553億円の黒字。そのうち、8割の5兆2830億円は自動車・同部品による。一方、農産物の収支は1兆4671億円の赤字で、本来なら農業は交渉から除外してもおかしくない。

 10年11月の菅直人内閣時に農林水産省は、農産物が世界レベルで自由化されたら国内農業生産額は4兆1千億円減り、食料自給率は14%に低下するとの驚くべき試算を出したことがある。

 食料の8割以上を海外に依存する事態となれば、安全かどうかえり好みどころではなくなり、文字通り国家的リスクになる。令和の時代をアベノミクスならぬ「アベノリスク」で始めないでほしいものだ。

農政ジャーナリスト 小視曽 四郎(おみそ・しろう)

 

(KyodoWeekly5月13日号から転載) 


PR特別企画
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ