試されるコミュニティーの力 東京一極集中からの転換へ

 日本の人口は2008年をピークに減り始め、世界最速といわれる高齢化と、少子化に直面している。「地方創生」を掲げる安倍政権の政策を検証するとともに、地域の新しい動きを、地方新聞社と一般社団法人共同通信社がつくる「地域再生大賞」の選考委員を務める、同社の伊藤祐三企画委員にまとめてもらった。(編集部)

 

 安倍政権が主要政策に掲げた「地方創生」。2060年に1億人程度の人口を維持するとの目標を定め、担当大臣の元でさまざまな政策をそろえ、地域振興への関心は高まった。ただ、第1期総合戦略が終わる19年度を迎えても東京への一極集中は変わらない。

 一方、地方を活躍の場に選ぶ若者は増え、工夫あふれた試みも始まっている。環境は厳しいが、地方を取り巻く「熱量」は確実に高まってきた。好機を生かし人口減少時代を生き抜くには、政府だけでなくコミュニティーの力がいよいよ重要になっている。

 

オーダーメード

 

 「いろんなコンサルタントが来たよ。行政や議会の視察もどんどん来るね」。高知県で地域づくりに挑むNPO法人の男性は話す。廃校となった小学校で始めた活動が評判を呼び、訪れる人がぐっと増えたのだ。少子化が進んで学校の廃校は各地で相次いでおり、跡地の利用は共通の悩み。成功例からヒントを得たいと、さまざまな地域から人々がやって来るのだという。

 では、この実績をひっさげて、ほかの町でも取り組む考えはと水を向けると、男性からは「それはないなあ」と、即座に答えが返ってきた。地域によって歴史や環境は違う。アピールできる資源や担い手となる人々も異なる。こうした点を無視して自らの成功体験を頼りに突き進んでも、同じ果実を得ることは難しいというのだ。

 男性が、この活動にかけてきた時間は10年近い。さまざまな反対やトラブルも立ちはだかった。外部からの評価が高まり、地元の空気も変わってきたのは、ここ1年ぐらいのことだという。別の町で同じ取り組みをすれば、今度は違うトラブルが起こるであろうし、それに合った対処も考えないといけない。結局、地域づくりはオーダーメードなのだ。

 

東京圏への流入続く

 

 安倍政権の「地方創生」の核となる「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は、これまでの政策を検証し、府省庁や制度ごとに似たような政策を進めてきた「縦割り行政」や、地域の特性を考えない画一的な手法、短期間で成果を求める施策などを反省点として上げていた。

 その上で、国と自治体がそれぞれ総合戦略を作り、数値目標を示して政策効果を点検しながら取り組みを進めるとしていた。

 さらに、15年から本格的にスタートした5年間の第1期では、地方に仕事や新たな人の流れをつくるなどの目標を掲げ、さまざまな政策を打ち上げた。地域経済をめぐるビッグデータ提供などの情報や国家公務員らを派遣する人材、地方創生推進交付金などの財政の「地方創生版3本の矢」による支援も進めて、頑張る地方を応援するための態勢を整えたとしていた。

 こうした政策を踏まえて、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局は、20年までに実現を目指す数値目標に対する、現状の達成率をまとめた。地方の仕事では、30万人増とした若者の雇用は27万1千人を、77%とした25~44歳の女性就業率は74・3%を、それぞれ達成したとした。ただ、こうした数字が政策の成果なのか、日本全体で進む人手不足の影響なのかは判断しにくい。

 一方で、地方から東京圏への転入を減らし、東京圏から地方への転出を増やして転出入を均衡にする目標は、東京圏への転入超過が13万5600人に膨らみ達成は遠い。この結果、東京圏の人口割合は10年の27・8%から17年に29・0%に上昇、一極集中が加速しているのが実情だ。だとすれば、地方創生は思うような成果を上げていないと言わざるを得ない。

 

「横展開」には限界

 

 霞が関には「横展開」という言葉がある。ある地域での成功事例を基にモデルをつくり、ほかの地域へ導入していく戦略だ。家電や衣料品のチェーンのように、優れたビジネスモデルを各地に展開していく方法と重なる。

 しかし、先に述べたように地域づくりはオーダーメードであり、各地で同じように成果を上げることは難しい。

 それでも「横展開」を進めるのはなぜだろうか。補助金などの支援を行うためには、モデルが必要となるからだ。政府予算を配分するには、簡素で公平な基準が重要となる。政策効果が分かっていれば、その大きさに応じて金額を配分すれば分かりやすいだろう。しかし、あらかじめ効果を見通せる政策は少なく、成功事例に基づくモデルであれば、いわば裏打ちになるとの計算がのぞく。ただ、繰り返しとなるが、地域づくりはオーダーメードなのだ。

 安倍政権の地方創生より前に始まり、10年目を迎えた国の「地域おこし協力隊」は、地方からの評価が高い。地方自治体で働く若者を支援する仕組みで、住んだ町が気に入って移住するケースも多い。19年度は約5千人と、13年度の約5倍に増える見込みだ。好評の理由は、国の縛りが少なく「使い勝手がいい」(地方自治体)ことだ。地域の課題に向き合い柔軟な活動ができるといい、若者はやりがいを感じることができ、自治体には新たな取り組みを生むメリットをもたらしている。

 さまざまな課題に立ち向かう地域づくりは、こうした仕組みがふさわしいだろう。国は税制など大枠を示し、細かな設計や判断は、より現場に近い場所で行う。そのためには、霞が関の役人を地方へ分散する体制に変える必要もあるだろう。地方創生で掲げた政府関係機関の地方移転は、文化庁の一部の京都移転のほかにめぼしい成果がなかった。仕組みを変えれば、関係機関の移転も進むはずだ。

 当然、地方自治体の責任は重くなる。国が用意したメニューから選ぶだけではなく、わが町のビジョンを示し、ふさわしい政策を自ら掲げなくてはならない。人口減少は各地で本格化し、戦略を練るための時間は限られている。スピード感をもって対策を打ち出すためにも、自治体にかかる期待は大きい。

 

「上からの改革」の限界

 

 安倍政権による地方創生の現状は「上からの改革」の限界を示しているともいえる。人がどこに住み働くのかは個人的な選択であるし、企業が本社や工場を置く地域を選ぶのは経営戦略だ。魅力的なメニューを並べても誘導することは難しい。東京23区から事務所を移転するなどした企業への税制優遇措置を設けたが、17年度の適用実績はオフィス減税と雇用促進税制で計38件にとどまっている。

 一方で各地を歩くと、地域づくりは新たな時代に入ったことを実感する。地域おこしと呼ばれた頃は、担い手はボランティアであり、資金は行政の補助金頼みという活動が多かった。しかし、最近急速に増えているのは、自前で資金を調達し専従の職員も雇う自立した活動だ。鍵となるのは地域課題の解決策を事業化につなげるアイデアだ。

 山梨県北杜市で、耕作放棄地の開墾を進めるNPO法人「えがおつなげて」は、首都圏の大企業とタイアップして事業を進める。開墾作業を企業研修として位置づけたのがポイントだ。地元にとって貴重な担い手を確保できる一方、企業にとっては農業体験が社員のリフレッシュや親睦となり、収穫したコメで社員食堂のイベントもできる。双方のメリットが生まれ、地域づくりは事業として成立した。

 

人材をシェア

 

 三重県紀北町ではウェブデザインが本業の「ディーグリーン」が、地元の魚を使った離乳食の販売に取り組む。漁師らと連携し新たな産物を送り出し、地域の雇用をつくり経済を活性化させたいとの思いを込める。都市部の子育て世帯に狙いを絞りインターネットで販売、顧客は増えつつある。

 こうした地域発の取り組みがこれからの地方を支える大きな柱だ。地域のニーズをとらえ活用できる資源を集め、関係者の利益になる。組み立てができるのは、そこに住む人たちだろう。その意味でコミュニティーの力が一層、重要となっている。

 地方を支える輪は広がっている。やりがいを地域や人の役に立つことに求め、より成果が見える地方を目指す若者の動きはある。山梨や三重の活動も担い手の多くは若者だ。

 ITの発達で地理的距離が大きな問題でなくなったことも追い風だ。副業の容認など働き方の多様化もプラスだ。本業と平行し地域づくりに携われば、地方と都市が人材をシェアすることができる。

 どんな町にしたいのか。結局、創意や工夫が人を引きつける力となる。人口減少時代を生き抜くには、わが町への思いが最も重要な出発点となる。

(共同通信企画委員 伊藤 祐三)

 

(KyodoWeekly5月13日号から転載)


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