4月の映画

 ☆は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

「バイス」(4月5日公開)☆☆☆

一見社会派映画のようでありながら…

 イラク戦争を始めたジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務め、陰で戦争を推し進めたとされるディック・チェイニー(クリスチャン・ベール)の若き日から、ホワイトハウスでの暗躍、家族の問題などを描く。

 アダム・マッケイ監督は前作「マネー・ショート華麗なる大逆転」ではリーマン・ショックの裏で金に固執する男たちの姿を軽妙に描いたが、本作も、一見社会派映画のようでありながら、ユーモアや遊び心が随所に見られ、娯楽作品としても楽しめる。また、ベールが体重を20キロ増量し、髪を抜き、1日5時間近くもメークに費やしてチェイニーの20代から70代までを1人で演じ切るなど、俳優たちが当時の米政府の中心人物そっくりに演じる姿も見ものだ。

 こうした、映画を使った告発、あるいは自己浄化は、アメリカ映画の長所だ。しかも、実在の人物が存命中であるにもかかわらず、このような映画が製作されることには毎度、驚かされる。これは日本ではあり得ない。

 

「ビューティフル・ボーイ」(12日公開)☆☆

ドラッグ依存症の根深さを描く

 音楽ライターの父とドラッグ依存症だった息子が、それぞれの視点から書いたノンフィクションを映画化。父親役をスティーブ・カレル、息子役をティモシー・シャラメが演じる。シャラメは「君の名前で僕を呼んで」の同性愛に続いて、今回も難役に挑んだ。監督はベルギー出身のフェリックス・バン・ヒュルーニンゲン。

 時系列を無視し、過去と現在を行き来させてコラージュのように見せるのは、監督の前作「オーバー・ザ・ブルースカイ」と同じ手法。また、前作のカントリーミュージックに代わって、今回は登場人物の心情を代弁する形で、タイトルとなったジョン・レノンの曲などが挿入されるが、静かな場面に大音量で音楽が流れると、せっかくの俳優の演技の印象が薄くなるのが難点だ。

 ただ、何度薬を断ってもやめられない、平気でうそをつくという、息子の姿を見ながら、ドラッグ依存症の根深さを知らされ、コカインを摂取したとして起訴されたピエール瀧(たき)被告のことを思った。

 

「シャザム!」(19日公開)☆☆☆

14歳の少年が体だけ大人になって…

 「DCエクステンデッド・ユニバース」の第7作。14歳の少年ビリー・バットソン(アッシャー・エンジェル)は、魔術師に選ばれ、中身は14歳のまま、超能力を備えた大人のヒーロー(ザッカリー・リーバイ)に変身する。

 という話から、12歳の少年が体だけトム・ハンクスになる、ペニー・マーシャル監督の「ビッグ」を思い出す人も多いと思われる。ただ本作が「ビッグ」と大きく違うのは、基本的にはヒーロー物であることはもちろん、主人公を身寄りのない少年とし、里親を転々として暮らしているという設定にしたところだ。彼が最後にたどり着いた先は、さまざまな人種の子どもたちが暮らす家だった、というところに現代性がある。そして“義兄弟”となった彼らが活躍する後半は「グーニーズ」をほうふつとさせる楽しさがある。

 マーベルの「アベンジャー」シリーズは「~/エンドゲーム」でどうやら終息しそうだが、DCシリーズは今後どう展開していくのだろうか。

 

「僕たちのラストステージ」(19日公開)☆☆☆

喜劇芸人の悲しき宿命

 1953年、かつての人気喜劇コンビ、スタン・ローレル&オリバー・ハーディが、イギリスでホールツアーを行うが、すでに彼らは“過去の人”になっていた。だが、2人が懸命にツアーをこなす中、やがて満員の観客が客席を埋めるようになるが…。

 スティーブ・クーガンとジョン・C・ライリーが、本物そっくりになって、日本では“極楽コンビ”と呼ばれた彼らの晩年を演じ、互いに唯一無二の存在でありながら、衝突を繰り返すコンビ芸人の愛憎を浮き彫りにする。ライリーは太ったハーディに似せるための特殊メークに毎日4時間を費やしたという。

 本作で改めて再現された2人の芸を見ると、いかにも味のある、ほのぼのとしたものは感じるが、大笑いはできない。つまり、観客をずっと笑わせ続けることなど不可能なのだ。そこに喜劇の残酷さや、喜劇芸人の宿命を感じる。映画を見ながら、一時は楽しませてくれたが、やがて消えていった多くの芸人たちの姿が重なって見えた。

 

「パパは奮闘中!」(27日公開)☆☆☆

仕事と家庭とのバランスを見つける闘い

 オンライン販売会社の倉庫で働くオリビエ(ロマン・デュリス)は、妻のローラと2人の子どもたちと懸命に暮らしていた。ところがある日突然、妻に家出をされてしまう。

 仕事と育児に奮闘せざるを得なくなった主人公の生活を通して、彼を取り巻くさまざまな問題について考えさせる本作の原題は「私たちの闘い」。ベルギー出身のギヨーム・セネズ監督によれば、主人公や周囲の人々が仕事と家庭とのバランスを見つける闘いを描いているから、そう名付けたのだという。

 本作は、設定が似ている「クレイマー、クレイマー」の現代版ともいわれるが、セネズ監督が基にしたのは、パートナーとの別れという自身の体験で、台本なしの即興で撮られた。

 また、富裕層の家庭を描いた「クレイマー、クレイマー」とは違い、本作は労働者階級の家庭を描いている。それ故、主人公の職場の問題なども描きながら「仕事とは何か」「働くこととは何か」という人生の根本的な問い掛けを見る側に迫ってくる側面も持っている。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly4月22日号から転載)

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