あなたの思い出の一品は? 「食」で振り返る平成30年間

 「人間の体は食べ物でつくられる」と言われる。1989(平成元)年からの平成30年間、私たちはどんな食べ物に出会って、自分たちの体をつくってきたのだろうか。時代の空気を色濃く反映する食について、 3回「食生活ジャーナリスト大賞」(ジャーナリズム部門)をこのほど受賞した、食文化研究家の畑中三応子さんに、振り返ってもらった。(編集部)

 

 食の世界に、あまりにも多くの出来事が起こった平成時代。特に印象的だったトピックを挙げてみると、六つになる。食は社会を映し出す鏡。30年間のブームや事件を振り返ってみることで、日本の変化も見えてくる。

 1、食の多様化

 平成はバブルの絶頂期に始まった。経済のバブルは食のバブルを生み、日本中がグルメブームに沸いていた。

 バブルを象徴するのが、「イタ飯」のブームだ。外食だけでなく、あまりなじみのなかったオリーブオイル、モッツァレラチーズなどのイタリア食材が、家庭料理に普及するきっかけにもなった。

 イタ飯ブームから生まれたティラミスは、食品・外食・流通・メディアの各産業を巻き込む、戦後最大規模の大ブームになった。

 ティラミス以降は、企業が意図的に仕掛けたブームが増え、タピオカ、ベルギーワッフルなど、その後に定着したものも多い。ブームのたびに食品が増え、食はますます多様化していった。

 

フードテーマパーク

 

 2、エンターテインメント化

 食べ歩きなどの食のレジャー化や、本格的料理を手作りするなどの食のホビー化は昭和期から盛んだったが、平成で顕著になったのが、食を娯楽として楽しむ、エンターテインメント化だ。

 テレビでは、食べ物の特集番組が増え、高視聴率を稼いだ。極めつけは、フジテレビの「料理の鉄人」。影響力は大きく、小学生の「将来なりたい職業」の上位にシェフやパティシエが入るようになった。また、テレビ東京の「全国大食い選手権」では、優勝者がタレント並みの人気を獲得した。

 ほかにも、「新横浜ラーメン博物館」や「池袋餃子スタジアム」など、食で遊べるフードテーマパークが全国各地に開設され、人気スポットになった。

 3、ローカルフードの台頭 

 昭和までの流行食は、外来ものが圧倒的に多かった。それがイタ飯ブームを境に、昔からある食べ物が「再発見」され、思わぬブームを巻き起こすようになった。食のグローバル化が進むなかで、日本の食文化が見直されはじめたのである。

 特に目覚ましかったのが、ラーメン、焼きそば、餃子といった、比較的新しい時代に生まれ、高度成長期以降に発達した「ローカルフード」の台頭だ。

 いわゆる「B級グルメ」「ご当地グルメ」で、和食に洋食と中華の要素が絶妙に融合し、脂っこい料理が多い。戦後に油脂がごちそうだった時代のなごりだが、現代人の嗜好(しこう)にもマッチした。

 それらの中でも、ラーメンは急激に進化した。各地で独自に発達した「ご当地ラーメン」が全国区になり、店主の個性を強烈に打ち出した「ご当人ラーメン」が人気を博した。

 つけ麺、油そばなど、新しいスタイルのラーメンが次々と生まれ、現在では国内のみならず、海外でも「日本食」としてのラーメンブームが広がっている。

 

「糖質制限」

 

 4、ますます強まる健康志向

 平成は、健康志向が病的なまでに強まった時代だ。

 背景には、「成人病」から「生活習慣病」への名称変更と、「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない」と規定する「健康増進法」の施行があった。

 トクホ(特定保健食品)第1号の発売は1993(平成5)年、サプリメントの販売解禁は、96(平成8)年。その頃からテレビの健康娯楽番組で、ココアや寒天などの普通の食品が「これさえ食べれば元気になる、やせる、○○が治る」とうたった驚異の健康食として紹介され、爆発的に売れるという異様な現象が続くようになった。

 こうした疑似科学への疑問からか、ここ10年は医師が推奨する健康法・健康食に目が向けられている。中でも「糖質制限」の人気は高く、低糖質食品がコンビニでも売られるようになった。

 5、求められる安心・安全

 食品偽装事件、食中毒事件、BSEの発生…。21世紀を迎えると同時に、食の安全性を損なう不祥事が頻発し、安心・安全への関心が急速に高まった。

 とりわけ、中国製冷凍ギョーザ中毒事件が引き金になり、どのように作られているかが曖昧な輸入食品への嫌悪感が広がって、「地産地消」が新しい食のキーワードになった。

 福島第1原発事故による放射能汚染は、地産地消を根底から揺るがしたが、「原料原産地表示制度」がスタートするなど、消費者が自主的かつ合理的に食品を選択できるよう、法整備も少しずつ進みつつある。

 

局所的な流行

 

 6、氾濫する食の情報

 テレビと紙媒体が中心だった食の情報がインターネットに移って、かつてないほどの量に肥大し、食がSNSのコミュニケーション・ツールとして不可欠な存在になった。

 「インスタ映え」は、味より見た目重視。サイバー空間には、バーチャルな食べ物があふれかえっている。

 知りたい情報にしかアクセスしないのがインターネットだから、以前のような「右向け右」のブームは起こりづらい。

 知っている人は知っているが、知らない人はまったく知らないという局所的な流行に変わり、周期はますます短くなっている。

 その中で、珍しく長く続いているのが、現在の肉ブームだろう。背景には、やはり健康志向がある。

 今後どんな動きが起こるか、予測するのは難しい。だが、戦後ずっとそうだったように、それは日本の食を前より豊かにする変化であってほしいと願う。

 ×  ×  ×

 はたなか・みおこ 1958年8月生まれ。中央公論社(現・中央公論新社)の「シェフ・シリーズ」「暮しの設計」編集長を経て、プロから初心者向けまで幅広く料理書を手がける一方、近現代の食文化を研究する。「ファッションフード、あります。―はやりの食べ物クロニクル」(ちくま文庫)、「カリスマフード―肉・乳・米と日本人」(春秋社)など著書多数。

 今年2月には、長年にわたり「食」の文化的変遷、流行の特徴と変化を追い続けてきたジャーナリストとしての業績が認められ、食生活ジャーナリスト大賞に輝いた。

 

(KyodoWeekly4月22日号から転載) 

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