「漫画の森」癒やしのファンタジー

 食事というわかりやすい成果がついてくるとはいえ、料理は紛れもない家事労働。負担者(つくる側)と受益者(食べる側)の関係性が微妙になるのは、実生活ではありがちなことだ。そのへんのバランスをうまくとり「つくる楽しみ」「食べる喜び」をクローズアップするグルメ漫画は、日常系のようでいて癒やし効果の高いファンタジーなのかもしれない。

 「きのう何食べた?」(既刊14巻、よしながふみ/講談社)は、実力派の描き手による「2人の食卓」ど真ん中の作品。だが、ここでの「2人」は男性同士のカップルだ。片や職場でのカミングアウトは夢のまた夢、弁護士の筧史朗(かけい・しろう)。片やオープンな性格で「あまり家のことを外でしゃべってくれるな」と、パートナーから苦言を呈される美容師の矢吹賢二(やぶき・けんじ)。彼らの喜怒哀楽を追いつつ、料理と食事のシーンを必ず盛り込む一話完結ものだ。 着実に巻を重ねてきた作品だが、1巻の初版は2007年11月。それがここにきて実写ドラマ化されるというニュースが流れ、ファンに喜びと懐疑、期待と不安をもたらしている。

 グルメ漫画は食事シーンがクライマックス。そこに至る料理過程とストーリー進行を絡めるのが王道だ。一方、本作はキャラたちの仕事や家族関係などのエピソード描写はもちろんあるのだが、各話の後半は流れをかなぐり捨ててでも「つくる人」筧史朗のモノローグによるレシピ・手順紹介に徹する。作者の、食への情熱とリアリズムが一体化した姿勢を体現する潔さだが、「あれをそのままやるのか」「ドラマとしての盛り上がりは大丈夫だろうか」という懸念が生まれるのもむべなるかなだ。

 加えて筧史朗の考案する献立は、カロリー抑制とコスパを何より重視したもの。彼は自宅近くの激安スーパーをまめに巡り、底値を厳密に把握し、安価な食材を腐らせずに繰り回すことに至高の喜びを見いだす。つまり、ビジュアル的には極めて地味な献立が多いのだ。サバの塩焼きやカボチャの煮つけ、コールスローサラダなど、確かに毎日の食卓にはあんばいの良いメニューではあるが、果たしてTV画面上で映えるだろうか。ファンの心配は尽きない。

 さらに言えば、読者心当たりの「あるある」感と漫画ならではのベタさがブレンドされた心くすぐるリズムも、人物や吹き出しの配置を平面上で完璧に把握した作者の職人技あってこそに思えるのだ。あの呼吸を、俳優と映像でどのように再現しうるのか。いっそのこと「孤独のグルメ」のようにキャラと設定だけを生かして、物語そのものは換骨奪胎したほうがいいのではないかとまで思えてくる。

 その一方で、原作のあのエピソードが見たい、あの献立をつくってほしい、脇キャラのあの人も見たいという要望はくめども尽きせず湧いてくる。特に脇キャラについては、主役2人には〝盛る〟ことの難しい、振り切ったコミカルさのあるゲイカップルがいるので、配役に贅沢(ぜいたく)は言わないから登場してほしいと思う。

 人気作の映像化となれば不安はつきものだが、浮き足立ったファンもメインキャラのキャスティングにはおおむね納得したようだ。筧史朗に西島秀俊、矢吹賢二に内野聖陽(ともに敬称略)という主役級を2人引っ張ってきたのだから当然か。放映の4月期に向け、小出しにされる情報に振り回される日々が続きそうだ。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly3月18日号から転載)


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