「本の森」西洋の自死

ダグラス・マレー著

●526ページ

●東洋経済新報社(税別2800円)

 

移民問題の必読書

 

 「現代は本質的に悲劇の時代だ」。英国の作家、D・H・ロレンスは小説「チャタレイ夫人の恋人」の冒頭、こう書いた。それから90年後、同じ英国のジャーナリスト、ダグラス・マレーは本書を「欧州は自死を遂げつつある」と書きだした。そして「指導者たちは、自死することを決意した」と続けた。大量の移民を急激に受け入れた結果、欧州の社会や文化が変質して欧州でなくなりつつある現状を報告し警鐘を鳴らしたのだ。もう手遅れだから弔鐘かもしれない。移民問題を考えたい人にとっては必読と言っていい本だ。本文に先立ち評論家の中野剛志氏の解説から始まる異例の構成だ。500ページを超える大著なので、最初に全体を俯瞰(ふかん)する解説は必要だと出版社は考えたのだろう。

 欧州で移民が必要だという理由はこうだ。「経済成長に欠かせない」「高齢化社会だから仕方ない」「社会の多様化はいいことだ」。マレーは丁寧にその誤りを指摘する。職にあぶれた若者が欧州にはたくさんいるのに、なぜ未熟練労働者を招き入れるのだ。これを取り上げた第3章はゆっくりと読むと参考になる。日本でも受け入れの理屈は同じだからだ。

 マレーは欧州各地で移民との間で起きている摩擦を次々に取り上げる。例えば日本人はスウェーデンの惨状をどれだけ知っているのか。第3の都市では半分以上が異民族になった。警官の同行なしで消防隊が入らない地区ができた。英国では移民が多い地区では伝統的なパブが消え、教会も閉鎖されていく。移民が増えた地区から富裕層は郊外へ出て行く。残るのは出て行けない資力のない層だ。こんな話は序の口だ。

 また、多くのメディアは移民が引き起こす問題や不祥事を報じないと怒りを込めて書く。「移民反対」と発言すれば「不寛容」「人種差別者」と批判される。果てには公職を追放される。だから欧州の人たちは表立って発言できなくなった。マレーはタブーに挑戦したのだ。

 日本人は混乱する欧州を人ごとだと考えているのだろう。普通、失敗した先行事例があれば、避けるというのが常識ある人間のとる行動だ。日本では違う。人手不足だから必要だと目先の理由を掲げて欧州の後を2周も3周も遅れて追い掛けているのだ。

 今年の正月に読む本として安倍晋三首相は3冊の本を写真付きでフェイスブックなどで紹介した。本当は本書こそ読むべきだったのだ。そうすれば出入国管理法の改正に踏み切ったことに後悔しただろう。法改正で社会の混乱や分裂を招く道への扉をさらに開いたのに、指導者が悲劇だと思わない。現代の日本は悲劇の時代だ。

(北風)

 

(KyodoWeekly2月18日号から転載)

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