マイナンバーでデータ整備を 医療情報の結合に必須

 巨大IT企業グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コムの頭文字を並べた「GAFA」が世界中を席巻している。人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)が進む中、技術そのものよりもデータが重要だ、という認識が広がっている。政府のIT戦略も、普及からデータ活用へとかじを切った。いかに正確かつ、精緻なデータを整備できるかどうかが鍵になる。

 

個人を特定

 

 政府のIT戦略計画では「全ての国民がIT・データ利活用の便益を享受するとともに真に豊かさを実感できる社会」を実現するとうたっており、データ利活用の重要性が明確に打ち出されている。

 背景には、IoT技術、ビッグデータの処理技術、オープンデータ、情報を解析するAI技術という四つの技術の進展や潮流がある。しかし、データが大量にあるだけではデータの持つ本来の力を発揮することはできない。AIとて質の悪いデータで学習すれば間違った回答をするだけだからだ。今後ますます重要になることは「いかに正確かつ精緻なデータを整備するか」であり、これがデータ利活用社会の成否を握ることになる。

 あるメディアの調査では、大手企業でAIを活用する、と回答した企業は予定も含めて100%近くに上る。一方、60%以上がAI運用に欠かせないデータ整備ができていないという。 特に、個人に関して品質の高いデータを整備しようとすれば、個人を確実に特定できるマイナンバーが必要となる。匿名化されたデータを扱うにしても、その準備段階として正確にデータを結合するためにマイナンバーは必須だ。行政においては戸籍や不動産登記簿のデータ整備が求められるが、民間においても同じことがいえる。その代表例が医療分野のデータだ。

 

長寿という恩恵

 

 AI実用化の事例として医療分野における「WATSON」がよく取り上げられる。その評価に関する議論はさておき、病気の治療や疫学的研究においてデータが役立つだけでなく、病気の予防においてもデータが役立つことは言うまでもない。

 一つの病院だけでカルテを電子化してもその便益は限られ、病院相互で電子カルテのデータを共有することで初めて患者は恩恵を享受できる。患者がどこの病院に行っても、これまでの病歴を説明するまでもなく、医師が過去のデータを参照して適切な診察や治療を施すことができるからだ。

 さらに、健康診断や介護の記録、日常の食事や運動習慣などのデータも記録した生涯電子カルテが実現すれば、治療だけでなく予防のための助言を行うことで、長寿という恩恵を受けることもできる。予防接種などの副作用や感染症の広がりと日常生活の関係を分析し、拡大する前に対策を打つことも可能だ。

 このような恩恵を受けるためには、治療や健康に関する個人のデータが正確かつ精緻なデータとして管理され、同じIDを使って結合できなくてはならない。

 しかし、現状においては健康保険証に顔写真がなく、確実な本人確認ができないばかりか、別人が保険証を使いまわす事例もある。さらに、被保険者番号は世帯単位で付番されているため個人を特定できず、転職や住所変更などで保険者が変わると番号が変わってしまう。予防接種や健康診断の記録も管理組織が別々であるため異なる番号だ。

 医療分野の議論では「個人単位の被保険者番号」をIDとする方向だ。被保険者番号を個人単位としたのは一歩前進だが、転職や住所変更などで保険者が変わると番号が変わる欠点はそのままだ。その番号の履歴を支払基金・国保中央会で管理するというが、履歴を管理するための個人特定のキーはマイナンバーにならざるを得ない。

 このように番号が異なるために個人の情報が結合されなかったり、誤って他人の情報を結合したりすることを防ぐために、共通的なIDがマイナンバーであったはずだ。

 

医療データの現状と総合的分析

 

 医療データといってもさまざまなデータベースがある。悉皆(しっかい)性が高く汎用(はんよう)性のあるデータベースとしては次の三つがある。

 NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)は100%近いレセプト(診療報酬明細書)情報を格納する高い悉皆性を持つ国内最大の医療情報データベースである。しかし、転職や婚姻などで情報が変わると名寄せできない欠点があり、レセプト情報と特定健診等情報の突き合わせもシステム改修後においても90%に届かない。

 次にKDB(国保データベース)は介護保険情報も保有するという利点があるものの、対象が自営業者や高齢者にほぼ限定される。そのため、被用者保険の医療情報、妊婦健康診査・乳幼児健康診査・学校健康診査などの情報は含まれず、保険制度の切り替えで個人の生涯にわたったデータ分析ができない。

 DPCデータベース(DPC:診断群分類包括評価)は対象病院が限定的だが、その数は増加傾向にあり、NDBに次ぐ悉皆性を持っている。

 しかし、同一患者であっても病院が異なると別のデータ識別番号となるため名寄せできず、1人の患者についてデータに基づいた総合的な分析ができない。このようなデータを正確に結合できれば、品質の高いデータが整備できるだろう。

 そのためにマイナンバーを使うと個人情報保護上、問題だとされる。もちろん分析する際にはマイナンバーなど個人特定可能な項目は匿名化すればよく、マイナンバーがあれば本人の責任によってデータの利用制限や解除も可能だ。

 医療の将来はマイナンバーを活用したデータ整備にかかっていることを、今一度認識すべきではないだろうか。

 

[略歴]

富士通総研経済研究所 主席研究員

榎並利博(えなみ としひろ)

東京大文学部考古学科卒業、1981年富士通株式会社入社。中央大非常勤講師、早稲田大公共政策研究所客員研究員などを経て、2010年より富士通総研経済研究所

 

(KyodoWeekly2月18日号より転載)

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