「漫画の森」絵が持つ力

 物語やキャラ設定など、漫画にはさまざまな魅力があるが、「この画力あればこそ」の作品に巡り合う喜びもある。

 「サムライせんせい」(既刊6巻、黒江S介/リブレ)は由緒正しげな日本家屋に鎮座する侍が、少女たちの手作り弁当を固辞する場面から始まる。「私は里に妻を残す身、縁のないおなごから施しを受ける筋合いはござらぬ」という彼に、「そんな大げさなもんじゃないし。なんかごめんね先生」とたじろく少女らは、侍とは対照的に現代風のいでたちだ。実はこの侍、武市半平太は幕末から平成の世にタイムスリップしてきたのだった。

 漫画には、「こんなに甘やかされていいのか」と読む側が心配になってしまう設定がしばしば登場する。本作でも、現代に放り込まれた侍の奇矯な行動が笑いを生むのはもちろん、時間旅行者が武市半平太となればあの人もあの人も絡んでくるのではないか、という期待が高まる。そしてその期待は裏切られない。

 最大の特徴は、読者サービスメガ盛り設定もさることながら、実は美麗かつ線の太い作画だ。雄渾(ゆうこん)さと艶っぽさが同居する絵は、殊に武市らの「本来の時代」を描いた回想パートとなじみがよい。やっぱり魅力的な坂本龍馬の愛嬌(あいきょう)、岡田以蔵のミステリアスな佇(たたず)まいには「よくぞこの絵で描いてくれた」と感謝の念が湧く。

 現在、侍たちがタイミングを違えてさみだれ式にタイムスリップしてくる乱打戦の様相を呈してきた本作。「あの人は来ているのか」「このいかにもな男はもしかして」と臆測を巡らす楽しみもある。実はドラマ化も映画化もされた人気作だ。作者は本作を連載開始後、さらなる集中を求め高知県に移住したそうだ。

 「空母いぶき」(既刊11巻、かわぐちかいじ、原案協力・惠谷治/小学館)は今年実写映画化が予定されている。舞台は20XXの日本。タイトルロールの空母が当たり前のように職務に赴く、ディストピアものとも呼べそうな作品だ。だがそのディストピアは現実に非常に近く、リアルさを追求した進行は「シン・ゴジラ」にも似た緊迫感がある。

 とはいえここで海上自衛隊が対峙するのは巨大不明生物ではない。映画は「日本の離島が国籍不明の武装勢力から攻撃を受ける」設定らしいが、原作ではずばり国名が出ている。序盤、相手国の強固な意志と話が全く通じない様子が淡々と描かれ、第1次世界大戦前夜の列強に挟まれた欧州小国はこんな気分だったのではと背筋が冷たくなる。

 職業人の描き方に定評ある作者だが、本作でも逆境下で針に糸を通すような職務に臨むプロフェッショナルたちをどっしりと描く。想定外の事情に翻弄(ほんろう)されても、ろくに表情を動かさない彼らの顔の羅列は、平板なようでいて強い圧を演出し、せりふの密度を際立たせる。

 前線がなしくずしに戦闘状態になる以上、当然死傷者が出るのだが、描かれた「死者」の姿は現在我々(われわれ)が知る災害や事故ゆえの死者の姿と大きな差はない。遠慮した描写のようでいて、戦闘の本質を突いているとも思える。死は結局どこまで行っても死なのだ。

 政治家の描き方がやや理想的すぎるきらいもあるが、解決を手探りする当事者たちの義務感は確かだ。最後に作中、F35機出撃をスクープした新聞社幹部のせりふを引用してしめくくりたい。「武力奪還を遂行するのは政府、自衛隊、そしてそれを容認した我々、国民である」と。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly2月4日号から転載) 


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