「音楽の森」録音芸術ならではの妙味

 クラウディオ・アバドが亡くなって5年がたつ。1933年イタリア生まれの彼は、ミラノ・スカラ座、ロンドン交響楽団、ウィーン国立歌劇場、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督などを歴任した名指揮者。2003年以降は、自らを慕う演奏家が集ったルツェルン祝祭管弦楽団などに活動を絞り、多大な尊敬を集めながら、2014年1月20日に80年の生涯を閉じた。

 このたび、1971年5月31日にアバドが指揮した、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会のライブ録音がCDリリースされた。演目はシューベルトの交響曲第8番「未完成」と交響曲第5番。これはORF(オーストリア放送協会)が収録した音源で、ディスクとしては初出の“発掘”録音である。なお、現在第7番の表記が一般化している「未完成」は、当時のプログラムに従って第8番となっている。

 アバドはウィーン・フィルとも浅からぬ関係にあった。1965年のザルツブルク音楽祭で同楽団を指揮して絶賛されたのが、世界的な注目を浴びるきっかけだったし、1973年の初来日も同楽団とのツアーだった。彼は通算500回以上ウィーン・フィルを指揮したという。

 アバドは、声高に叫ばずしてナチュラルかつハイクオリティーの音楽を聴かせる指揮者だった。本作では、そんな彼が、ウィーン・フィルの伝統である古雅な香り、柔らかく流麗な音色、ウィーン国立歌劇場のオーケストラを母体とするがゆえの豊かなカンタービレなどの特徴を生かした、今や聴くことが稀(まれ)なシューベルト演奏が展開されている。

 「未完成」の第1楽章冒頭から、ゆったりしたテンポによるしなやかで深い歌が流れていく。ホルンや木管楽器の音色は、まさに古き良きウィーン・フィルのもの。盛り上がる場面は、恰幅(かっぷく)がよく、ドラマチックでもある。第2楽章も、悠々と歩みながら、彼岸のごとき美しさが表出される。

 20歳前のシューベルトが書いた佳品、交響曲第5番の第1楽章は、瑞々(みずみず)しく生気に富んでいる。ふくよかな歌にあふれた“濃厚にして爽(さわ)やかな”第2楽章は、この演奏の特長が端的に表れた場面。第3、第4楽章は、爽快かつダイナミックだ。

 伸び盛りの才能と老練な楽団の長所が融合した本作は、シューベルトの交響曲が有する繊細な歌と濃密なロマン、深みのある美感を改めて認識させてくれる。まずはその点が大きな魅力である。そして、デビューから12年を経た当時38歳目前のアバドには、このあと約42年に及ぶ実り多き未来が待っていた。そうした音楽家の人生の輝かしい瞬間を追体験できるのも、“録音芸術”ならではの妙味といえるだろう。

(音楽評論家 柴田 克彦)

 

(KyodoWeekly1月28日号から転載)

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