持続可能な観光のために

 筆者が住む古都京都は、長い文化・歴史を持つ世界有数の観光都市だ。少し前、「京都ぎらい」(井上章一、朝日新聞出版)という新書がベストセラーになった。京都の市外を指す、洛外出身の井上氏による〝内部告発〟は生々しく、多くの賛否の声が寄せられたようだ。京都の持つ魅力と奥深さのゆえだろう。

 一方、そんな魅力はときに地域の許容量を超える、大量の観光客を呼び込み「オーバーツーリズム」と呼ばれる問題を引き起こす。海外では多くの観光客が訪れたことで水質汚染や住環境悪化が深刻化したため住民が反発し、観光客の受け入れ数制限を決断した自治体もある。

 オーバーツーリズムによる問題は既に京都市内でも顕在化している。昨年末、八坂神社でこれまで参拝客に無料で振る舞われていたおとそ「おけら酒」が中止された。外国人観光客の急増で数百メートルにも及ぶ長蛇の列ができ、警備が困難なためだ。SNSの拡大で住民しか知らなかった情報が全世界に拡散されるようになったことも一因であろう。外国人だけが悪いわけではないが、これまで行われてきた行事がなくなるのは住民としては寂しい限りだ。

 これ以外でも、京都市内を走る電車やバスが非常に込み合い、通勤や通学に支障が出ている。大きなスーツケースの間を抜けて車内を移動するのは老人や子ども連れには大変厳しい。

 ごみの不法投棄や深夜の喧騒(けんそう)もひどい。市内中心部では相次ぐホテル建設のためファミリー向けのマンション供給が少なく、家賃が高止まりしている。 その結果、足元では子育て世代の流出が進んでいる。京都市が公表した2018年の転出入状況を見ると、ファミリー層が多い30代で転出者が転入者を上回る転出超過となっている。特に観光客が集中する上京・中京・下京各区などでは京都府内の他市町村や大阪府・滋賀県への転出数が増加傾向にある。

 これらの対策を後回しにすれば、まちが空洞化するだけではなく観光客の満足度も低下し、京都を訪れる人は減っていく。 京都市は昨年10月から修学旅行生を除く全ての宿泊者に宿泊税を課し、混雑対策や環境整備に充てる予定だが、制度が知られておらず、徴収時にトラブルが生じるなど課題も多い。

 25年に大阪での万博開催も決まり、関西を訪れる訪日外国人は確実に増える。観光は受け入れ地域の経済を潤すだけではなく、交流を通じて相互理解を深められる重要な成長産業だ。

 そこで観光客と地域住民の共存という視点からいくつか提案をしたい。日本文化の理解やマナーについては、入国時に滞在中のマナーを解説する簡易パンフレットを配布し、ツアー客にはマナー講座を必修とする。宿泊税は運営会社に働き掛けオンライン予約の段階で計上されるようにし、立地場所や客数、ベッド数に比例して累進課税することで観光客の分散を図る。

 手ぶら観光への補助も公共交通機関の混雑解消には効果的だろう。加えて、地域住民がバスに優先的に乗車できるような試みや、一日乗車券の住民割引なども検討してはどうか。

 国連では、過度な商業化を避けて環境や文化を守る「持続可能な観光」が課題となっている。果たして京都の現状は持続可能と言えるだろうか。世界的な問題解決の先進事例を京都から発信していきたい。

(アジア太平洋研究所調査役 木下 祐輔)

 

(KyodoWeekly1月28日号から転載)


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