混沌世界にも一筋の光 今年の5作「漫画の森」拡大版

 2018年の世相を表す「今年の漢字」が「災」に決まった。自然災害の多発、スポーツ界のパワハラなどが人災として挙がった。さまざまな災いが、世界をますます混沌(こんとん)化させる中、今年1年を振り返り「舞台設定はいろいろあれど『逆境で見いだす一筋の光』『逆境をそれとは認識せずに突き進むパワー』」が感じられ5作品を選んでみた。

「約束のネバーランド」 (C)白井カイウ・出水ぽすか/集英社

 

 昨年秋の連載開始早々、注目を集めた「約束のネバーランド」(既刊11巻、原作・白井カイウ、作画・出水ぽすか/集英社)は年明けからのアニメ放映を控える。主人公を含めた最高齢11歳までの子どもたちは、養護施設でひっそりと暮らす。だがその施設には隠された目的があった…、という物語。ひりひりする駆け引きと土壇場での逆転を前面に押し出し、サスペンスあふれる脱出劇となっている。

 「次のコマで読者を驚愕(きょうがく)に突き落とす」を連続技で繰り出しながら、刺激過多の弛緩(しかん)状態にならないのは、綿密な原作の組み立てあってのことだろう。また一見イラスト的作風の作画担当の、「物語としての絵を描く」力にも瞠目(どうもく)した。特に、追い詰められた子どもらが打開策を練る際の、腹に一物ありげな顔にはうならされる。

 設定はとがっているが、実は子どもが健気な欧州大陸系児童文学の系譜を継ぐ作品かもしれない。5巻で、自らに負わされた重い役目を留保なしに飲み込む4歳男児の表情を見てそう思った。

 同じ少年誌に14年連載された「銀魂(ぎんたま)」(既刊75巻、空知英秋/集英社)は9月に「最終回」を迎えた。カッコつきなのは予告通りの終了ができなかったからで、今後は月刊誌に舞台を移し、作者の言によれば「確実に息の根を止める」らしい。TVアニメ、映画、実写映画と映像化のフルコースを経験したヒット作だが、11、12巻収録の名編「紅桜編」を上回るものを描こうと作者はアイデアを絞り続けたのではないか。

 SFと時代劇の混じったギャグベースの人情もの、時々バトルありという、何でもありな作風ゆえか、話が進むにつれキャラ数が飛躍的に増加した。「最終決戦」が数年続いたのも、無数のキャラをさばききる必要があったからだろう。長い連載の間には作者の疲労や開き直りを感じることもあった。だが本作の魅力のすべては、士気高揚の突撃シーンを一転パロディーでちゃかした「なんちゃって最終回」に凝縮される。愛嬌(あいきょう)のある作品、最後まで見届けたい。

 長の時を経て今年アニメ化されたのが「BANANAFISH」(全19巻、吉田秋生/小学館)。鮮烈な個性をもつ主人公のアッシュと日本人青年・英二の関わりを中心に据えたクライムアクションで、新たな切り口を捜すのも難しいほど語りつくされた名作だ。ひねりのないストレートなせりふの数々に胸を突かれる。登場人物が荒っぽいやりとりを繰り広げる一方、背景に愛情というテーマが細い糸のように織り込まれた話なのだが、その愛についての言葉が挑戦的なほどシンプルだ。この場面でこのキャラが口にするのだから、凝ったせりふは不要という確信のなせるわざか。

 原作では背景をあまり描きこまずに生まれた「間」が特徴的だった。アニメではアクションの力を信じ、この「間」を潔く省いている。スピード感は出るが、脇キャラ同士の関係性などはどうしても端折られる。特に、アニメで割を食いがちだった中国系ストリートギャング、シン・スウ・リンの魅力はぜひ原作で確認してほしい。彼の人懐っこい個性が結局は、悲劇的で不可避な結末につながっていくのだ。

 「傘寿まり子」(既刊8巻、おざわゆき/講談社)のヒロインまり子は異色の80歳。文筆業で細々ながら現役を継続という比較的恵まれた境遇にある。しかし、古い作家仲間が家族と同居しながら孤独死した事件をきっかけに、彼女の「晩年」は一変。終(つい)の棲家(すみか)のささやかな居場所が、息子や孫夫婦の負担になっていると気付き、よわい80にして家を飛び出す。かつてかなわぬ思いを抱いた男性と再会し、急転直下同棲が始まるも、王子様は高級車の助手席に彼女を乗せて高速道路を逆走してしまう…。

 テンポは軽快で主人公は前向き、とはいえ世間ずれした年長読者はまり子の綱渡りの冒険に肝を冷やしっぱなしだ。きっと作者は「元気をもらう」という表現の空疎さを知っている。一方、助けを求めて上げた悲鳴も息が続かなくなればやみ、いつかは悲鳴を上げる以外の行動が必要になることも知っている。

 8巻現在、まり子はシャッター商店街を活性化させるべく苦闘中。不屈と無茶の境界が曖昧な頼もしい主人公が、目を背けたくなるリアルに取り組む姿を見守りたい。

 「腸よ鼻よ」(島袋全優)は漫画配信サービス「GANMA(ガンマ)!」で公開中の作品だ。若くして難病を患った作者が、こじらせた「潰瘍性大腸炎」の脅威のほどをワイルドな笑いにのせて紹介。体験記とウェブ発信の相性のよさを堪能できる。

 本作の話数のカウントは「第1回」でも「第1話」でもなく「指腸」でなされる。明白に十二指腸を意識したのだろうが、軽やかにその回を通り過ぎ現在「33指腸」まで進んでいる。書籍として流通するには著作権的に若干微妙な、自由過ぎるパロディーのコマが複数点在。これが単行本化のハードルだろうと複雑な気持ちになりつつも、元ネタを同定していると不思議に同志愛が湧いてくる。

 それにしても、食べると即腸が動いて腹痛を発症、よって絶食。免疫が低下しているので外出の際は防護服めいた着衣で完全防備…と、笑いに紛らせてはいるが壮絶な闘病生活だ。体当たりの創作姿勢は感服の一語だが、早期の寛解を祈りたい。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly12月31日号から転載)


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