平和の配当

 まるで、乗っているエレベーターが落ちたような激しい揺れだった。9月6日未明、北海道を襲った最高震度7の「胆振(いぶり)東部地震」。震源地のすぐ北に位置する千歳市に住む知人の話である。家族と家の安全を確認してから、余震が続く中、職場のある新千歳空港に向かった。彼は「千歳観光連盟」の幹部職員である。

 「空港に到着すると、女性用トイレの前には長蛇の列。停電でスマホの充電もできず、フライトを待つ外国人観光客が不安そうにうろうろしていました」。すぐ職員に指示し、トイレに列を作っていた人たちを、空港駐車場にあるトイレに誘導した。全道が丸2日間ブラックアウト、北海道の「空の玄関」の空港も2日間閉鎖された。

 雄大な自然に温泉、海産物のグルメ、観光資源に恵まれた北海道は、外国人観光客の人気スポットである。2017年の外国人観光客数は前年比21%増の279万人。日本を訪れる外国人旅客の10人に1人が訪れた計算である。このうちアジア各国の占める割合は8割超。トップの中国をはじめ、韓国、台湾、香港だけで全体の75%を占める。アジアは最大の顧客なのだ。

 ところが地震のあった9月の外国人観光客は、日本全体で5年8カ月ぶりにマイナスに転じた。「一連の災害の影響とみられる」(菅義偉官房長官)。

 そんな中、千歳観光連盟は10月26日、空港から約5キロの場所に多目的型「北海道観光ステーション」の起工式を実施した。来年5月に開業するステーションは、駐車場のほか海外からの修学旅行、団体客が宿泊できる複合施設だ。

 同連盟は約10年前から、台湾の中・高校の修学旅行の受け入れなど、アジアでの誘客活動を本格的に進めてきた。昨年は台湾だけで9校(279人)が訪問。地震の影響が心配されたが「10月末には予定通り、台湾の高校の校長先生たちが下見の参観に来ました」。

 日本の人口減少に歯止めはかからないが、千歳市の人口は増え続け4月に9万7千人になった。空港内で働く従業員数も、この10年で約50%増えて8千人を超え、市内の自衛隊員数(8600人)に迫っている。国際線の増便に伴う商業テナントの増加が背景だ。自衛隊員数を超えるのは時間の問題という。そうなれば、観光は「平和の配当」の証になる。

 「地震から2カ月、余震数もようやく減りました。正確な数は分かりませんが、観光客も6、7割がたが戻った感じがします」。1年後には原状に戻るとみる。

 今年は明治維新150年。開拓に始まり石炭産業の興亡など幾多の風雪を経てきた北海道だが、観光はいまや大資源。観光は「平和」と「繁栄」それに「移動の自由」の三つがあって初めて成り立つ。日常を取り戻し始めた北海道の、アジアへの視線は熱い。

 (共同通信客員論説委員 岡田 充)

 

(KyodoWeekly11月26日号より転載)


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