11月の映画

 ☆は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

「ビブリア古書堂の事件手帖」(11月1日公開)☆☆

古書を巡るミステリー

 三上延のミステリー小説を、三島有紀子監督が映画化した。就職浪人の五浦大輔(野村周平)は、祖母(渡辺美佐子)の遺品で、夏目漱石のサインが入った「それから」を、鎌倉の「ビブリア古書堂」に持ち込む。店主の篠川栞子(黒木華)は筋金入りの古書マニアだったが、ひょんなことから大輔はこの店でアルバイトをすることになる。

 現在と50年前の二つの恋を交差させて描きながら、「それから」に記されたサインと、太宰治の「晩年」の初版本を巡る謎を解いていくという趣向。大道具としての古書店、小道具としての古書、万年筆、原稿用紙、本をめくる音などで、本好きのつぼを刺激しながら、同時に本以外のことには無頓着な“古書マニアの業”も描き込んでいるところが面白い。

 今年の黒木は、多数の映画やドラマに出演し大活躍を見せたが、これまでは、どちらかと言えば時代劇や古風な役が多かっただけに、本作の演技はとりわけ新鮮に映った。

 

「ヴェノム」(2日公開)☆☆☆

凶悪なダークヒーローが登場

 マーベルシリーズの新作。正義感の強いジャーナリストのエディ(トム・ハーディ)は、人体実験のうわさがあるライフ財団への取材に失敗。仕事も恋人(ミシェル・ウィリアムズ)も失い、半ばやけになって財団の研究施設に潜入する。ところがそこで、被験者と接触したため、エディの体に“何か”が寄生する。やがて宇宙からやってきた“何か=ヴェノム(毒)”とエディは一つになり、共生し始める。

 凶悪なルックスとキャラクターを持ったダークヒーローが登場。マーベルシリーズの常だが、後につながるさまざまな種をまく“誕生編”がやはり一番面白いのではないか。特に本作では、ハーディが善悪のはざまで揺れるエディ役を好演している。

 監督は「ゾンビランド」などのコメディー映画を手掛けたルーベン・フライシャー。そのせいか、本作も全体的にはグロテスクなのに笑えるところが多々あるし、エディとヴェノムによる“バディムービー”として見ても面白い。

 

「ボヘミアン・ラプソディ」(9日公開)☆☆☆☆

ロックバンド・クイーンの軌跡

 1970年のメンバー同士の出会いから、85年のライブエイドでのパフォーマンスまで、ロックバンド・クイーンの軌跡を、リードボーカルのフレディ・マーキュリーの屈折と葛藤を中心に描く。監督はブライアン・シンガー。

 フレディ役のラミ・マレックら、4人のメンバーを、若手俳優たちが見事に演じているのだが、ただの再現では終わっていない。まるで本物の4人が乗り移ったかのようなすご味がある。

 中でもライブエイドのシーンは圧巻だ。また、「ボヘミアン・ラプソディ」などの製作秘話が描かれるのもポイント。「ジャージー・ボーイズ」のフォー・シーズンズ同様、才能のある者同士が集い、曲が出来上がっていく様子を見るのは楽しい。

 個人的には、最初は単なるアイドルグループだと見られていたクイーンが「ボヘミアン・ラプソディ」で評価を一変させた時の驚きや、衛星中継を見ながら、今か今かと登場を待ったライブエイドのことなどを思い出した。

 

「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」(10日公開)☆☆☆

若者投資グループによる詐欺事件

 1980年代初頭、“西のウォールストリート”と呼ばれたロサンゼルスを舞台に、実在した若者投資グループによる前代未聞の詐欺事件を描く。

 グループの中心人物のジョー・ハントとディーン・カーニーを、若手のアンセル・エルゴートとタロン・エガートンが演じているが、2人の上を行くベテラン詐欺師を演じたのが今やほぼ引退状態のケビン・スペイシー。

 この映画は、彼の同性に対するセクハラが告発される前に完成していたため、公開に踏み切ったとのこと。2人を完全に食った達者な演技を見せられると、彼を完全に干してしまうのはいささか惜しい気もする。

 思えば、グループの連中は筆者とほぼ同世代。映画が描いた事件の狂乱とむなしさが、この直後に起きた日本のバブル景気の前後に重なって見えるところもある。ただ、ハントとカーニーが目立ち過ぎてグループ劇としてはいささか弱くなった分、詐欺の手口や役割分担が分かりにくくなったところが残念だ。

 

「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」(17日公開)☆☆

シーツをかぶった幽霊の不思議な物語

 不慮の交通事故で亡くなった男(ケイシー・アフレック)が、妻(ルーニー・マーラ)への思いを胸に、幽霊となってさまよい続ける様子を描く。

 そう聞いて、見る前は幽霊と人間との切ない交流を描いた「ゴースト/ニューヨークの幻」や「オールウェイズ」をイメージしたのだが、監督・脚本のデビッド・ロウリーは、幽霊に対して全く違うアプローチを試み、成仏できない魂、時間と空間、歴史の円環、家、音などをキーワードに展開する摩訶(まか)不思議な物語とした。シーツをかぶった幽霊というビジュアルのおかしさに反して、テレンス・マリック的な精神世界や、哲学的な実存主義を内包させているのが肝心なところ。

 スタンダードサイズの画面に額縁型のフレームが付く。カメラは長回しで、会話はほとんどなく、その分日常の音が目立つという構成に、正直なところ、見ながらしばしば睡魔に襲われた。精神世界を描いているだけに、好き嫌いが大きく分かれる映画だと思う。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly11月26日号より転載)

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