「音楽の森」最大級の賛辞を贈りたい一作

  1956年に創設された日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会が、2018年5月に第700回を迎えた。その記念すべき公演で披露されたのが、ストラビンスキーのメロドラマ「ペルセフォーヌ」。今回ご紹介するのは、同公演のライブ録音である。

 この曲は、フランスの作家アンドレ・ジッドの台本(フランス語)をもとに、バレエ音楽「春の祭典」「火の鳥」などで知られるストラビンスキーが作曲し、1934年にパリで初演された作品だ。ナレーション(ペルセフォーヌ役)、独唱(進行をつかさどる祭祀(さいし)ユーモルプ役)、混声合唱と児童合唱、オーケストラによって演奏され、元々は舞踊も伴っていた。しかし、こうした異色の編成をはじめとする種々の事情で上演機会に恵まれず、本CDの公演が日本初演でもあった。

 本作は、ギリシャ神話の春の女神ペルセフォーヌの再生の物語で、冥界の王に誘拐されたペルセフォーヌが、冥界の苦しみを知り、春になって花咲く地上に戻るといった流れが大筋。曲は、ユーモルプの歌で物語が進みながら、ペルセフォーヌの語りとさまざまな役割をもった合唱が対話していく形になっている。

 指揮は、2008年から日本フィルの首席指揮者、16年から桂冠指揮者兼芸術顧問を務めるアレクサンドル・ラザレフ。日本フィルのクオリティーを大幅に向上させた立役者で、本企画も彼の熱意により実現した。

 このほか、語りは女優兼声楽家のドルニオク綾乃、独唱はメトロポリタン・オペラなどで活躍するテノール歌手、ポール・グローブス、合唱は小澤征爾との共演で名を上げた晋友会合唱団と東京少年少女合唱隊が担当している。

 演奏は、すこぶる美しい。作品へのシンパシーに満ちたラザレフのクリアかつ丁寧な表現にオーケストラも呼応し、詩情豊かで清冽(せいれつ)な名演が生み出されている。自然な抑揚のナレーションと独唱も曲の魅力を引き立てているし、精緻なニュアンスに富んだ合唱陣は最大の功労者といえるほど素晴らしい。第2場のオーボエやトランペットをはじめとする器楽の独奏も秀逸だ。

 細部に触れる余裕はないので、ラストの場面のみ触れておこう。地上に戻ったペルセフォーヌは、苦しむ者たちがいる冥界へ、あえて自ら帰っていく…、この結末とそこに付された音楽は、現代社会への示唆とピュアな感動が交錯し、静かに深く胸に迫る。

 そして、財政的なバックを持たない自主運営の日本フィルが、特殊な編成(経費がかかる)による無名の作品(券売が難しい)の日本初演を敢行し、隠れた傑作の真価を知らしめたこと、その結果、貴重な録音を世に出したことに対して最大級の賛辞を贈りたい。

(音楽評論家 柴田 克彦)

 

(KyodoWeekly11月26日号より転載)

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