ないものは作ってしまおう~畑で思う地域づくり~

 夏の終わりに母が亡くなった。親戚や知人への連絡や葬儀の段取り、四十九日法要の手配と、次々と迫る行事に追われているうちに、あっという間に1カ月余りが過ぎた。一息つくと、すっかり忘れていたことに気が付いた。母が耕していた畑だ。

 信州・伊那谷は9月下旬になると、一気に秋が深まる。実家の畑に行くと、トマトのビニールハウスの惨状が目に入った。台風に襲われビニールがめくれ上がり、トマトをほとんど覆っていない。赤身を帯びた実が所々残っているが、旬を過ぎているのは明らかだ。これまでと定め片付けることにした。

 ハウスを作ったのは、母がまだ畑に出ることができた5月の連休だった。一緒に帰省した長男と2人で、パイプで枠組みを作りビニールを張った。2列に植えたトマトの間を、1人がやっと通れるほどの小さなハウスだが、素人の腕では一日仕事だった。怪しげな出来上がりを見た母は「まあ、何とかトマトが作れそうね」と笑った。

 崩壊寸前のハウスの解体に時間はかからなかった。ビニールははがれかけていたし、パイプもすぐ抜けた。ただ、しっかりと伸びたトマトは違った。鎌で枝を払い、根を引っ張っても動かない。この根が、あの味の源だったのかと感じた。完熟時のうまさは格別だ。母が残したトマトを食べながら「今年で最後か」と、次男がつぶやいていたことを思い出した。全部抜き終えると、着ていたトレーナーは汗ですっかり湿っていた。

 週末ごとに、畑の後始末は続いた。母は近所の人の手も借りて、ネギやカボチャ、ナスなどを植えていた。放っておいた間にナスはすっかりしおれてしまった。オクラは巨木化し、しっかりと堅くなってしまい、歯が立ちそうもない。しかし、雑草の間に埋もれていたカボチャは収穫できた。冬にかけてうまくなるはずと、ネギは残した。

 「ないものは作ればいいのよ」。栃木県で出会った女性は明るく話した。山あいの廃校を拠点に地域づくりに挑む彼女は、教室をカフェやブティック、イベント広場に変えた。廃校は多彩な店で埋まり、多くの人が訪れる場所に変わった。沖縄の離島で話を聞いた女性は、仲間と介護施設をオープンした。住民と話し合って、最も求められている施設だと分かったからだ。

 映画「フィールド・オブ・ドリームス」では、トウモロコシ畑を切り開いた球場に、往年の名選手がよみがえった。2人の女性の思いを込めた取り組みからも、新たな物語が広がっている。彼女たちの挑戦は、動き出さなければ、何も始まらないことを教えてくれる。

 畑は作物の始末を終え、ミニトラクターで耕した。母が植えた野菜は姿を消し、黒い土が静かに広がる。汗をぬぐって戻ると、玄関の土間に近くのおじさんが立っていた。「今朝、取ったんだ」と渡された菓子箱を開けると、マツタケがぎっしり。漂う香りに、畑での疲れは一気に吹き飛んだ。

 思わぬごほうびは、山の暮らしも悪くないなと感じさせる。そう、作ればいいのか。広がる畑が、黙ってこちらを見ていた。

(共同通信企画委員 伊藤 祐三)

 

(KyodoWeekly11月19日号から転載)


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