「音楽の森」大いなる可能性を刻む

 今回は極めて珍しいディスクをご紹介しよう。バリトン・サクソフォンで演奏した「ロシア・チェロ作品集」だ。サクソフォンといえば、一般にはポピュラーなジャズ、あるいは吹奏楽のイメージが強いであろう。それでもアルトはクラシック音楽に時折り登場するし、テナーで演奏したバッハの無伴奏チェロ組曲が話題を呼んだこともある。しかしながら低音のバリトンとなれば、かなり詳しい方でも、サクソフォン四重奏の下支え程度の認識しかないのではなかろうか。

 本作はそうしたイメージを大きく覆す画期的な録音だ。吹いているのは、東京芸術大やパリ音楽院などで学び、三つの国際コンクール、および日本管打楽器コンクールで優勝している本堂誠(ほんどう・まこと)。現在は日本屈指の実力派ブルーオーロラ・サクソフォン・カルテットのバリトン奏者を務めている。本作は、この20代の新星のデビュー・アルバムである。

 収録されているのは、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチのチェロ・ソナタと、グラズノフの二つの小品。両ソナタはこのジャンルを代表する名作だ。3人ともサクソフォンを用いた作品があるので、語法がかけ離れすぎてはいないものの、意欲的な挑戦であるのは論を待たない。

 だが今回このCDを取り上げたのは、演奏自体にある。つまり“頑張ってチャレンジしました”といったレベルではなく、バリトン・サクソフォンの可能性や魅力と同時に、“音楽そのもの”がナチュラルかつ真摯(しんし)に表現されているからだ。

 とにかくフレージングが滑らかで表現力が豊か。同楽器でしか出せない低音の魅力とアルト顔負けの高音の豊潤さ、陶酔的なまでの節回しなど、終始感嘆させられる。何より原曲の良さや秘めたる妙味を再発見させる音楽力が並ではない。

 ラフマニノフの第1楽章から、自然なフレージングと音色に引き込まれる。ゆったりした第3楽章はとりわけ美しく、思わず聴き惚(ほ)れてしまう。ショスタコーヴィチは、楽器の特性が曲自体のシニカルなトーンに意外なほど合っており、機知に富んだ終楽章の歯切れ良さに心も弾む。グラズノフの小品のエキゾティックな趣もより明快に表出されていると言っていい。

 本堂自身、ライナーノーツに「私にはこの楽器のアイデンティティーが確立しているとは到底思えない。バリトン・サクソフォンの個性とは? 他の楽器にない特徴とは? そこに大いなる可能性が秘められていると信じている」との旨を記している。本作は、まさしくその“大いなる可能性”の第一歩を、立派に刻んだと言えるだろう。

 管楽器のファンはもちろん、新たな音楽世界を求めている好奇心旺盛な方には、ぜひ一聴をお勧めしたい。

(音楽評論家 柴田 克彦)

 

(KyodoWeekly10月29日号より転載)


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