10月の映画

 ☆は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

「散り椿」(9月28日公開)☆☆☆

“黒澤映画の影”が見え隠れする

 映画撮影者として数々の名作に携わった木村大作の監督第3作目で、初の時代劇。舞台は享保時代。かつて藩の不正を訴えたが認められず、故郷の扇野藩を出た瓜生新兵衛(岡田准一)は、病に倒れた妻(麻生久美子)の最期の願いを胸に、故郷に戻るが…。

 本作の脚本を書いたのは、長い間、黒澤明監督作品で助監督を務めた小泉尭史。木村監督も、撮影助手として黒澤組に入り、黒澤監督から薫陶を受けた。というわけで、本作の圧倒的な、雨、雪、風、花、馬などの描写には“黒澤映画の影”が見え隠れするところがある。また、独創的な殺陣という点でも、本作の岡田と、「用心棒」「椿三十郎」の三船敏郎のイメージが重なるところがある。

 このように、本作は映像的には黒澤映画の素晴らしさを十分に継承しているとも言えるし、よわい80近くなってから、殺陣や人物描写に独創性を持たせ、新たな時代劇を作ろうとした木村監督の姿勢に頭が下がる思いがした。

 

「チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛」(10月6日公開)☆☆☆

“西洋版の落語”として楽しめる

 舞台はチューリップの球根売買がバブル景気を呼んだ、17世紀オランダのアムステルダム。貧しい画家のヤン(デイン・デハーン)は、富豪のコルネリス(クリストフ・バルツ)から、自分と若妻ソフィア(アリシア・ビキャンデル)の肖像画を描いてほしいと頼まれる。ところが、絵を描くうちに、ヤンとソフィアは恋に落ちる。そうとは知らないコルネリスは、跡取りの子どもをひたすらほしがる。そんな中、コルネリス家の女中マリアの妊娠を知ったソフィアは一計を案じるが…。

 本作は、17世紀のアムステルダムの街並みやコスチュームの再現、フェルメールの絵画のような画調も見どころだが、決して高尚な話ではない。むしろ、人間の色と欲の滑稽と哀れ、だます者とだまされる者の表裏一体の姿が生み出す悲喜劇、ナレーター=語り部の存在などが、落語の世界をほうふつとさせる。舞台を江戸時代の日本に移しても成り立つような“西洋版の落語”として楽しめる。

 

「LBJ ケネディの意志を継いだ男」(6日公開)☆☆☆

地味な大統領の知られざる素顔と功績

 ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺後、副大統領から大統領に昇進したリンドン・B・ジョンソン=通称LBJ(ウディ・ハレルソン)の知られざる素顔と功績を描く。

 ジョンソンは、理想の大統領とされるケネディと、憎まれ役のリチャード・ニクソンの間にいた地味な大統領、あるいは、ベトナム戦争を泥沼化させた張本人というマイナスの印象が強い。さらに、東部出身のエリートでスマートなケネディに対し、南部テキサス出身の田舎者で下品なジョンソンというイメージも作られた。

 ところが本作は、ケネディは公民権法、宇宙開発などに関するビジョンは示したが、実現前に暗殺され、それらを実現させたのは実はジョンソンだったという事実を知らせる。ベトナム戦争に関する描写がほとんどないことに疑問は残るが、1本の映画で複雑なジョンソン像の全てを描くのはどだい無理な話。今回はケネディとの絡みを中心に、手際よくまとめてみせてくれたことを評価したい。

 

「バーバラと心の巨人」(12日公開)☆☆☆

少女の心の成長を真摯に描く

 世界を滅ぼすという伝説の巨人の来襲を信じる少女バーバラ(マディソン・ウルフ)は、奇異な言動で周囲から孤立する。だが、彼女の行動の裏にはある秘密があった…。デンマーク出身のアンダース・ウォルター監督によるダークファンタジー。

 前半と後半でこれほど印象が変わる映画も珍しい。前半は暗い画調の中、バーバラが周囲に対して取る態度の悪さにいらいらさせられ、やるせない気分になる。ところが後半、バーバラが抱える屈折の理由が分かると、一転、彼女がけなげに見えて、いとおしくすら感じられるようになる。このあたり、原作・脚本のジョー・ケリーの作劇が見事だ。

 また、本作は、同じく今年公開された「ワンダー君は太陽」を陽とすれば、その裏返しの陰として、対をなすところがある。主人公が少年と少女という違いこそあれ、どちらもハンディを持った思春期前の子どもと周囲の関わり、あるいは子どもたちの心の成長を真摯(しんし)に描いているからだ。

 

「searchサーチ」(26日公開)☆☆☆

全編がパソコンの画面で展開する

 妻を亡くした韓国系アメリカ人のデビッド・キム。彼の16歳の娘マーゴットが、突然姿を消した。行方不明事件として捜査が開始されるが、家出なのか、誘拐なのかも分からない。娘のSNSを探ったデビッドは、そこに自分の知らない娘の姿を見ることになる。

 キム一家の歴史を紹介する映像モンタージュに始まり、全編がパソコンの画面で展開するというアイデアが秀逸。われわれはいかにパソコンやスマホに依存しているのかが見えてきて、怖くなる。

 本作が、監督デビュー作となったインド系アメリカ人のアニーシュ・チャガンティは「スピルバーグ、シャマランに次ぐ、映画の天才登場」と騒がれているが、いくら斬新なアイデアがあっても、それを生かすストーリーテリングがよくなければ話にならない。その点では、本作も巧みに書かれた脚本が最大のポイント。見かけは斬新だが、中身はオーソドックスなミステリーの作劇法をきちんと踏襲しているのだ。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly10月22日号より転載)


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