「懐かしい」スイッチ押す描き手 さくらももこさんを偲んで

 テレビアニメにもなった「ちびまる子ちゃん」で国民的な人気となった漫画家さくらももこさんが8月15日、53歳で亡くなった。多くのファンはあらためて、さくらさんが描いた愛するキャラクターたちを思い出したことだろう。追悼の思いをこめて「ちびまる子ちゃん」を読み返し、さくらさんを偲(しの)んでその色あせぬ魅力を再確認したい。(編集部)

(C)さくらプロダクション

 関東地方がゲリラ雷雨に見舞われた8月某日、気象情報に混じって訃報のテロップが流れた。さくらももこさんが亡くなったとのことだった。

 「ちびまる子ちゃん」(既刊16巻/集英社)の1巻1刷発行は1987(昭和62)年7月。第1回、ヒロインまる子は、1学期終業式の帰り道、ランドセルから「ヘンな人形」をはみ出させ、ヘチマの鉢を含めた大荷物を抱えて登場する。続く第2回、日付は8月31日に飛び、でっち上げの日記からやっつけの工作まで、夏休み最終日の試練を息も絶え絶えにしのぐまる子の姿が描かれた。序盤で小学生の夏休みの真のメインイベントを正面切って描き、すでに横綱相撲の風格を感じさせた。

 絵は後年と比べあまり変わらず、当初からまる子は完成された存在だったのだとわかる。一方、花輪君は少し顔が異なり「オー、チェリーブロッサム・ピーチチャイルド」などと口にする姿はまだない。心の中でとはいえ、まる子を「バカ女」呼ばわりして若干荒ぶっている。

 装飾や華麗さにきっぱり背を向けた画と、シンプルなコマ割りは新鮮だった。6巻収録の「プールびらき」で、プールサイドの児童たちは大胆にもU字型の胴体と平行線の脚で描写されている。にもかかわらず、たいそう愛らしい。かと思えば4巻の「まるちゃんおばけ屋敷にいく」では、まる子の動転ぶりが絶妙に崩れた輪郭と震えた線で表現されている。単行本の「おまけのページ」で、単純な絵ほどごまかしが利かないと作者自身嘆いているが、さらりと見える描線に人知れぬ苦労があったのだと思う。

 アニメ時、キートン山田氏のナレーションになった突っ込み解説はもちろん特徴的だが、ばかばかしさを画で表現した、ギャグ漫画としての筋の通り方を忘れてはならない。特に「ヘンな顔」の数々は衝撃的で、少女誌ではまずお目にかかれないそのインパクトに戦慄(せんりつ)した。のちに「天才バカボン」の「ゲストバカ」に言及する作者の言を読むに至り、なるほどあのヘンな顔は不条理ギャグに登場するレベルのものであったのかと納得した。

 

脱力の魅力

 

 どのエピソードがお気に入りかは、読み手の思い出によって左右されるだろう。今読み返してみると6巻「ゆううつな参観日」のたたみかけぶりは出色だ。幼少時から落語が好きだったという作者の面目躍如ではないだろうか。

 初期の単行本には本編以外の読み切り作品も収録されていた。やがて「ももこのほのぼの劇場」との副題をもらったそれら作品は「うちはびんぼう」「おかっぱ・かっぱ」「盲腸の朝」とタイトルを並べてみれば分かるとおり、本編に勝るとも劣らない脱力度合いを誇った。おまけを含めて情報過積載になるのは、少女漫画コミックスではよくあることだが、そのみっちり感に中毒性を誘われて、擬音一つにも笑った。

 舞台となった静岡県清水市の、やんわりとした知名度がうまく働いたのだろう。まる子の同郷人になったかのような錯覚を抱いた読者は多かったと思う。アニメ化の第1報に喜びながら「サザエさん」の前座という華々しいポジションにはらはらし「近所の子を送り出す」に似た思いで見守った。その心配がどれだけ取り越し苦労だったかは周知の通りである。

 

分身との30年

 

 作者が私生活をひっそり守ったのは、あまりにも大きく羽ばたいた分身と、ある程度は距離を保つ必要があったからかもしれない。一方で、作品を愛していたからではないかとも考える。せんないことだが、仮に後期高齢者と呼ばれる年齢まで健在であれば、何か語ってくれたかもしれなかった。あの「まる子の本物」の落語めいた口調で。

 ただ懐かしい経験を書くのではなく、人がひとしなみに持つ「懐かしい」のスイッチを押す難行を、苦労を見せずになしうる描き手だった。今は病苦のない世界でのんびり創作できていることを祈る。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly10月1日号より転載)


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