成年年齢18歳へ引き下げ(下) 成年としての裁判と婚姻

 「18歳への成年年齢の引き下げ」を定めた改正民法は、2022年4月1日から施行される。若者の民法上の地位の変化は、彼ら彼女らにどのような影響があるのか? 行政による環境整備は進行していくが、併せて最も身近な親が語り掛けることで、若者一人一人が実感をもって受け止めることができるはずだ。そのような視点で、前回扱った「若者の契約」以外の問題について考えていきたい。

 

 Q 民法上の責任が「契約」以外でも生じることはあるのか?

 A 交通事故やけんかなどの突発事象が起きた場合、加害者には、賠償責任が生じ得る。加害者に故意・過失が認められれば、民法上「不法行為」とされ、被害者に対して損害に応じた賠償責任を負う。

 Q 加害者の年齢に応じた責任は、どうなるのか。

 A 年齢にかかわらず、加害者側に不法行為責任が生ずる。ただし、加害者が未成年であり「自己の責任を弁識する能力」が備わっていないと判断されれば、本人は免責され、監督義務者として親が賠償責任を負う。

 この「責任能力」ありなしは、判例上おおむね12歳程度が判断の分水嶺(れい)となっている。従って、成年年齢の18歳への引き下げによる直接的影響はない。

 Q では、何が問題なのか?

 A 示談交渉や、裁判になった場合に大きな影響がある。現在は、18~19歳は未成年者であるため、親の同意なく単独で示談を契約として決着させてしまっても、取り消すことが可能となっている。

 法改正・施行後には、成人と扱われる18~19歳が、加害者として必要以上の賠償に応じてしまったり、被害者として性急な示談を結んでしまったりした場合、示談を取り消すことができなくなる。

 交通事故のような突発事象に直面すれば、若者は混乱するだろう。加害者、被害者いずれの立場でも、結論を急ぐことなく、専門家などに相談すべきことを認識してもらう必要がある。

 Q 民事裁判では、具体的にはどのような影響が出るのか?

 A 民事訴訟法上、未成年者でも原告・被告となり得る。ただし、未成年者は「訴訟能力」がなく、法定代理人の立場で両親が共同して訴訟に臨み、適宜弁護士に依頼することになる。

 法改正・施行後には、18~19歳の若者が、単独で訴訟能力を有することになる。つまり今後は、親の知らないところで、18~19歳の子が原告・被告になって裁判に進んでいくこともあり得るわけだ。 

 Q 裁判で一番気を付けるべきことは?

 A 若者が被告になる場合に注意が必要だ。未成年が被告となる訴状は法定代理人である親の元へ届くため、親がチェックでき、子に事実確認の上、弁護士に相談するなどのアクションを取ることができる。

 2022年度以降は、18~19歳の子に直接訴状が届くため、親元を離れて暮らす子に届いた場合、子が放置しておくと事態は悪化する。

 どのような訴えに対しても、反論の書面を提出することなく、初回指定日に出廷しなければ、民事訴訟法上、被告として敗訴の判決が出されてしまうことは、しっかりと認識しておかねばならない。

 Q 契約・不法行為といった財産法上の問題点は理解できたが、家族法上の影響はないか?

 A 18歳男子・16歳女子という婚姻の最低年齢が、男女平等の観点から「男女とも18歳」に法改正され、成年となった者のみが婚姻することができることになる。

 現在は「未成年者の婚姻」には、それぞれの親権者(片方で構わない)の同意が必要とされる。成年年齢引き下げの法改正施行後は、18~19歳は親の同意なしに、婚姻できることになる。当然ながら、婚姻届が受理されれば、離婚届を提出しない限り解消はできない。

 Q 親として子に伝えるべきことというのは?

 A もちろん、親の同意が不要となる手続き変更だけでなく、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」するという憲法24条の理念の再確認は必要だろう。

 その上で、決定するのは子自身だという前提で、法律論とは離れて、人生の先輩として本音のアドバイスをする機会を意識的に持つことが、子にとっても役立っていくはずだ。

 Q 刑法における18~19歳の位置付けはどうなるのか?

 A 刑法上の刑事責任年齢は14歳以上だが、「20歳未満」の手続きは、少年法によって進められ、一定の保護が行われる。少年法の条文上は「20歳未満」とされており、民法上の成年年齢とは連動していない。

 その適用年齢を「18歳未満」とすることなどについて、昨年から、法制審議会(法相の諮問機関)の少年法・刑事法部会で審議が始まっている。現在も慎重な議論が進行中であり、国民として注目していくべき問題だ。

 Q 省庁横断の準備はどのように進められているのか?

 A 連絡会議のもと工程表も作られており、法務省と消費者庁、経済産業省、金融庁などの連携による「契約」対策に力点が置かれている。

 今後は、本稿で指摘した「民事裁判」「婚姻」に関する周知も十分な準備の上、推進されるべきだ。法務省だけでなく、裁判所にも裁判員制度導入時と同様の役割が期待される。

 もちろん、高校・大学連携による教育推進も欠かせない。大学教員の役割も、改めて自覚されねばならない。

 2回にわたって論じてきた「18歳成人」だが、欧米より半世紀遅れで実現となる現実を再認識せねばならない。真に「日本社会を活性化」するには、社会全体による環境整備に加え、親から子に対し、社会を支えていく成人を送り出すという気持ちで接していくことが不可欠ではないだろうか。

[筆者]

常葉大学法学部教授

大久保 紀彦(おおくぼ・のりひこ)

 

(KyodoWeekly9月17日号から転載)


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