足りないものとあるもの~畑で思う地域づくり~

 信州・伊那谷の実家の前でクルマを降りると、セミの声が激しく降り注いできた。8月、各地を襲った例年にない猛暑に山深い集落も包まれていた。歩くと強い日差しが頬に突き刺さり、額から汗が噴き出す。例年との違いは、もう一つ。実家が、1カ月余り無人となっている。母が体調を崩して入院、父も隣町に一時移ったためだ。

 庭は雑草に覆われ、植木の枝は、ざんばら髪のように乱れている。家に入ると、ほこりっぽい空気が漂う。この時期に毎年用意した、お供え物を乗せるための盆棚はなく、座敷はがらんとしたままだ。しばらく空けただけで、初めて来た場所のような違和感がある。つくづく、家は生き物なのだと思う。

 長靴を履き、カマやはさみを持って畑に出る。収穫期を逃してしまい、ひょうたんのように巨大化したズッキーニが葉の間から見える。どうにも食指が動かず、小さなビニールハウスに向かう。うだるような熱気にあおられ、真っ赤に熟れたトマトをもいでいく。かごが一杯になって、ハウスを出た。

 「足りないものを、まず数えたんです」。長野県北部で、温泉街の再建を目指す街づくり会社の社長を務める男性は振り返った。歴史はあるが、団体旅行から個人旅行に切り替わった時代の変化に対応できず、宿泊客が減る。街を歩く人の姿がまばらとなり、中心地は寂れていった。多くの温泉街が抱える共通の悩みだ。

 復活に向け、新たなターゲットに据えたのは、近隣のスキー場を訪れる外国人だ。ゆったりと過ごせる魅力があれば、足を伸ばしてくれるはず。そのために、街に欠けているものを考えたという。少人数で気軽に泊まれるユースホステル、くつろげるカフェ、夜遅くまで飲めるバー。空き家を改装して必要な施設を整え、経営者を募り、街並みを変えていった。

 「誰もいなかった通りを、外国人が行き来している。やったと思いましたよ」。男性は話す。アイスクリーム店が開くなど、新たな投資も呼び込んだ。スキーシーズンには宿泊施設の稼働率が上がり、活気は戻りつつある。もちろん、スキー以外のシーズンをどうするかなど課題は残る。しかし、階段を一つ昇ったという手応えを地域が共有できたことは大きい。「次の狙いは女性客だ」と、街づくり会社は、新たな目標を見据えて活動を続ける。

 「最近、見なかったね」。畑からの帰り、知り合いの男性が声を掛けてきた。定年退職後、この集落で農業に挑戦中と聞いていた。隣町の自宅と行き来し、無農薬によるコメ作りを始めたという。様子を聞くと「なかなか難しいね」と苦笑する。炎天下、草取りをしていると「何しているのと笑われる」と話しながらも、表情は明るい。

 実家の隣の市営住宅では、東京から移住した若い夫婦2組が子育てを続ける。向かいの空き家は、埼玉県から女性が引っ越してきた。周りでは、新たな芽が顔をのぞかせている。足りないものを補う方法もあるが、あるものを生かす方法もある。しんとした実家を前に、そう落ち込むことはないと言い聞かせた。

(共同通信企画委員 伊藤 祐三)

 

(KyodoWeekly9月10日号から転載)


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