マイナンバー3年目の正念場 三層構造モデルで積極的展開を

 昨年11月、マイナンバーによる情報連携と個人向けサイト「マイナポータル」が稼働し、今年7月からは情報連携が全面稼働した。3年目にしてマイナンバー本来の姿がやっと完成したことになる。そして法律の付則では3年目にマイナンバー制度を見直すとされ、今年10月がちょうどこれにあたる。マイナンバーを国民のため、社会全体のためにどのように利活用していくのか、わが国の将来を決める正念場だ。

 

受容されつつある番号制度

 

 マイナンバーカードの普及率は5月時点で11・2%にとどまっている。政府はその数字に危機感を募らせ、利便性向上に躍起だ。もちろん便利なことに越したことはないが、マイナンバーの本質は利便性ではない。

 現代社会において、国民の権利はデジタル情報で管理されている。その情報が誰のものか、それを特定するのがマイナンバーだ。氏名・生年月日などで特定できないことは、失われた年金問題で実証された。生涯変わらぬ番号で自分の権利を守る、これがマイナンバーの本質だ。

 その一方で、番号で特定されるとプライバシーが侵害されるという批判がある。住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)稼働前後の2年間の新聞記事見出し(全国紙5紙)を分析すると「拒否、不安、反対、削除、提訴、離脱、不参加」など制度そのものを否定するキーワードが多く見られた。

 しかし、マイナンバーについて同じ条件で分析したところ、「誤配、誤交付、誤配達、返送、ミス」など、運用の不備に関する指摘が多く、番号制度を否定するキーワードはほとんど見られなかった。番号によって国民のプライバシーが侵害される、国民が国家に監視されるというイメージはかなり払拭(ふっしょく)されており、マイナンバーは社会に受容されつつある。このような前提で、今後はより積極的な展開を考えていくべきだろう。

 

「新たな世帯」概念の創設

 

 政府はマイナンバーの目的として、国民の利便性の向上や行政事務の効率化だけではなく、第一の目的として公平・公正な社会の実現を掲げている。これは不正の防止という消極的意味ではなく、国民と国との関係、すなわち「負担と給付」の在り方を番号で公平・公正な制度に再設計していくという意味だ。その背景にあるのは、少子高齢化により費用が増大し続ける社会保障制度と債務残高が国内総生産(GDP)の2倍にも及ぶ国の財政事情であることは言うまでもない。

 これまでの番号が無い社会においては、標準世帯(夫婦と子供2人)を前提に、いわばどんぶり勘定で設計された社会制度が機能してきた。それを支えてきたのは戦後の人口ボーナスと高度経済成長にほかならない。しかし、現代においては少子高齢化によって人口構成が変化し、経済成長も低い水準にとどまっている。また、家族の形態や働き方が変わるとともに外国人も流入し、ライフスタイルの多様化や格差問題など、従来の対策では対応できない問題も起きている。

 居住実態としての住民票世帯のほか、被保険者とその被扶養者から構成される医療保険世帯、納税者とその扶養親族から構成される税世帯など、制度ごとに負担と給付の単位となる世帯のとらえ方が異なっている。

 実務の現場では、制度に合わせて世帯合併や世帯分離を行うケースや、児童扶養手当の受給を目当てに婚姻届を出さない夫婦もあるという。一般的な世帯でも、家族の単身・海外赴任や留学、介護施設への入所など、従来の世帯概念では捉えきれない。

 負担や給付を公平・公正なものにするには、マイナンバーで結合した「新たな世帯」を作り、その世帯を対象により精緻かつ的確な負担と給付の在り方を議論していくべきだろう。

 

番号が当たり前の社会へ

 

 そして、今後は政府のためではなく、国民のためのマイナンバー活用に力を入れるべきだ。番号制度が普及している多くの国では記入済申告書制度を採用している。この制度は、税の確定申告の負担軽減や還付漏れ防止に役立つだけでなく、年末調整の廃止なども可能にする。

 また、医療分野ではプライバシーより人の命を優先するという前提で、医療ミスを防ぎ、国民の健康や疾病予防に役立てるためにマイナンバーを使うべきだろう。

 さらに、戸籍への導入で相続手続きの負担を軽減し、戸籍と不動産登記をマイナンバーで連動させれば土地所有者不明問題は解消していく。

 課題としては、国民が番号は危険だと誤解し、マイナンバー本来の力が発揮できないことだ。国民はカードの取得をちゅうちょし、取得しても携帯しない。ある自治体の税務の現場では、確定申告書の6~7割、給与支払い報告書の6割でマイナンバーが記載されていないという。これでは事務効率化にもつながらない。

 過剰な規制を緩和し、マイナンバーを通常の「個人情報」として利用しなくては社会に定着しない。また、制度の展開においては、社会インフラや国家インフラといった「三層構造モデル」に基づいて相互にデータ連携できるよう導入していくべきだ。新たな国の基盤となるべく、10年~20年先を見据えたロードマップ(工程表)を国民に提示することも必要だ。

 

[略歴]

富士通総研経済研究所 主席研究員

榎並 利博(えなみ としひろ)

東京大文学部考古学科卒業、1981年富士通株式会社入社。中央大学非常勤講師、早稲田大公共政策研究所客員研究員などを経て、2010年より富士通総研経済研究所

 

(KyodoWeekly8月13日号から転載)


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