「漫画の森」時代を先取りしました

 鉄板の名作、とは言わないまでも、いっとき確実に話題を集め、深い印象を残した作品がある。「イオナ」(全9巻、澤井健/小学館)は1990年から3年間連載された。「時代を先取りしすぎた作品」と言われたが、逆に今であれば「不適切」のレッテルをべったりと貼られ、連載そのものが難しかったのではと思う。

 ある小学校に、現実離れした美貌の女性教諭が赴任。彼女は若き日のマドンナもかくやという奇抜かつ露出度の高い衣装をまとい、常識を置き去りにした数々の行動で学校中に騒ぎを巻き起こす。

 主人公の、露悪的だが率直な言動が、生徒たちを否応なしに感化する痛快さはいうまでもないが、本作の魅力はやはりギャグ漫画としての振り切れ度合いにある。ピンナップガールよろしく服装や髪型を変えながらも、「色っぽいというよりどうかしている」と生徒に評される主人公のコメディエンヌぶりは圧倒的。ミュージカル舞台さながらの楽しさが続くが、担任学級の卒業とともににぎやかだった舞台も終わりを迎える。去り際のせりふ、「あなた達とは長く付き合いすぎたわ」はまるで読者に向けているかのようだった。

 「メディックス」(全1巻、西村しのぶ/小学館)は90年代初頭の作品で、タイトル通り医学部生たちの日々を描いている。富裕層の多い同級生の中にあって、ワーキングクラスの主人公・広瀬浩一は異端だが、飾らない人柄が特に女性たちに人気。本宮ひろ志作品のような設定を、この作者はおしゃれな絵柄で軽やかに描く。彼をとりまく美女たちのバブリーファッションがこそばゆくも懐かしい。

 「あたしたちお金はいいけど場所柄帰りに飲んじゃうからね。新陳代謝激しー激しー」というバニーガールがいれば、「勤続6年のあたしだって月20万もないのに」とぼやく教授秘書もいる。こんな状況でも若い労働者は前途を悲観せず、のんきに生きていたのだ。先の時代が見えていたわけでもないだろうが、主人公とその親しい友人に限り、時の流れに耐えうる身なりに描かれているのがなぜか胸にしみる。

 ラストまで行き着けなかった作品のせいか、単行本化がずいぶん遅れた。時代を映す「日常系」の佳作を、作者自身がはにかみながらもこだわりなく振り返っているのがうれしい。

 「ぢごぷり」(全2巻、木尾士目/講談社)の作品名は「地獄のプリンセス」の略で、各話のタイトルは「地獄一丁目」「二丁目…」と続く。生真面目な若い母親が、新生児のわが娘に振り回される「地獄」を描いた物語だ。萌え系の画の中、そこだけリアルな赤ん坊の描写が、育児ストレスのただならぬ大きさを示唆する。

 青年誌掲載ゆえ読者の若い男性を怖がらせないためか、育児に関わるのは主人公と双子の妹という特殊な設定を採用。まさしく作者自身の新米父親としての体験が素材だという。追い詰められ、娘に「地獄へ帰れ」「もう、寝るか死ぬかどっちかにしてよ」とささやきかけ、世話に追われて終わりが見えない24時間を繰り返す主人公の姿は痛々しい。

 少子化を語るとき、女性の選択肢の多様化が高い確率で指摘される。ただ日本の女性が、出生率の高い国の女性に比べて、とりたてて自由奔放とは思えない。単純にファイティングスピリットの欠如を隠さなくなっただけではないのか。本作を読むとそう思えてしまうのだ。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly7月9日号から転載)


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