1980年代が再びブームに スピルバーグの映画から

スティーブン・スピルバーグ監督(筆者撮影)

 2045年のバーチャルリアリティーでの冒険を、最新の映像技術を駆使して描いたスティーブン・スピルバーグ監督の「レディ・プレイヤー1」が大ヒット公開中だ。本作のユニークな点は、近未来を舞台にしながら、1980年代のサブカルチャーに関するあれこれがたっぷりと詰め込まれているところ。本作の他にも、最近の映画には80年代の影響を感じさせるものが多い。なぜ、再び80年代が注目されているのか。来日したスピルバーグ監督へのインタビューを交えながら考えてみたい。

 

新鮮で、憧れる時代

 

 「レディ・プレイヤー1」では、オープニングの「ジャンプ」(ヴァン・ヘイレン)をはじめ、80年代を彩った名曲の数々が流れる。これは舞台劇を映画化した「マンマ・ミーア!」(08)や「ロック・オブ・エイジズ」(12)に始まり、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(14)や「ベイビー・ドライバー」(17)にも通じる、時代性や登場人物の心情をより豊かに表現するために、70~80年代のヒット曲を映画内にちりばめるという流れをくむものだ。

 また、「ブレードランナー」(82)の続編「ブレードランナー2049」が35年ぶりに製作されたほか、「スパイダーマン:ホームカミング」(17)と「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」(18)では、80年代に大ヒットしたジョン・ヒューズ監督の青春学園映画「フェリスはある朝突然に」(86)と「ブレックファスト・クラブ」(85)をなぞったようなシーンが見られた。

 これらの映画の監督の中には、80年代はまだ子どもだったり、生まれていなかったりする者も少なからずいる。筆者などは、80年代はつい最近と錯覚しがちだが、実はあれから40年近くもたっているのだ。

 そんな中、「レディ・プレイヤー1」に出演し、スピルバーグ監督と共に来日した21歳のタイ・シェリダンは「80年代は祝福された時代だと思う」と語り、同じく歌手でもある27歳の森崎ウィンは「80年代にはこんなサウンドもあったんだと気付いて新鮮だった」と語った。彼らのような若い世代にとって、80年代は、新鮮かつ、憧れの対象として映るようだ。だからこそ、最近の映画にはこの時代に関する事柄が頻繁に登場するのだろう。

 

「文化が王様」

 

 一方、71歳のスピルバーグ監督にとっての80年代は、「インディ・ジョーンズ」シリーズ(81・84・89)、「E.T.」(82)などを監督し、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズ(85・89・90)などを製作した、まさに全盛期とも呼ぶべき時代だった。

 インタビューでの「今回、なぜ80年代を描き込んだのか」という問いに対して、スピルバーグ監督は「80年代は、プロダクション(アンブリン)の設立、結婚、子どもの誕生など、個人的にも重要な意味を持つ時代だった」と前置きした上で「もしこの世界がディストピア(反ユートピア)に陥ったら、人々は一番安泰だった時代に回帰したいと思うのではないか。映画も、テレビも、ファッションも含めて、文化が王様で、素晴らしかった時代、とても善良で穏やかだった時代に」とその理由を語った。

 とはいえ、筆者は80年代がそれほどいい時代だったとは思えないのだが、スピルバーグ監督は80年代を「イノセントで楽観的な時代だった」とし、「今はシニシズム(冷笑主義)の時代だ。80年代に比べると、人が人を信用しなくなっている。今のアメリカは思想的にも二つに分かれ、信頼や信用がなくなってきている。『レディ・プレイヤー1』を作った大きな理由はシニシズムから逃げたかったから。皆さんを空想と希望のある世界にいざないたいと思ったから」と述べた。つまり彼にとっての80年代は、回帰すべき、良き時代の象徴なのだ。

 

二律背反

 

 ところで、スピルバーグ監督の映画には、例えば、遺伝子操作で恐竜を復活させた「ジュラシック・パーク」(93)、人工知能の受難の旅を描いた「A.I.」(01)など、最新の映像技術を使いながらテクノロジーの発達過多に警鐘を鳴らすという、ある種の矛盾を内包したものが少なくない。

 「レディ・プレイヤー1」でも、仮想現実の魅力と怖さを同時に見せながら、最後は、現実世界における人間同士のつながりこそが最も大事なのだと説いた。

 そうした二律背反は、シリアスな「シンドラーのリスト」(93)と娯楽作の「ジュラシック・パーク」に続いて、今回も全く毛色の違う「ペンタゴン・ペーパーズ」と「レディ・プレイヤー1」を並行して撮るという極端な二面性にも通じるのではないだろうか。

 だが、スピルバーグ監督は「『ペンタゴン・ペーパーズ』は大人として作らなければならない映画だったが、『レディ・プレイヤー1』は、子どもの心のままで作った。自分はまだ大人になっていないが、映画監督をしているので何とかなっている」と冗談交じりに語った。

 なるほど、だからこそ70歳を過ぎてもなお、大人のためのお子様ランチのような「レディ・プレイヤー1」が撮れたのか。彼の中にはいまだに大人と子どもが共存しているのだろうか。そう考えると、スピルバーグ監督が80年代を表現した「イノセントで楽観的」という言葉は、彼自身にも当てはまるのかもしれないと思えてくる。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly6月18日号から転載)


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