「元気がないときは豚を食え」 新入社員向け心を整える漫画選

 

 今春、新鮮な気持ちで職場に入ってきた新入社員たちも、3カ月が過ぎようとしてる。慣れない環境に心身の不調を覚えるかもしれない。最近では「五月病」が長引く傾向があるという。じめじめした梅雨時期だからこそ、仕事を速く切り上げ自宅に戻り、風呂に入って、さっぱりとした気分で、心を整えるのに役立ちそうな漫画を手にしてはいかがだろうか。(編集部)

 

 対処を誤ると長引きかねない五月病。そこで、メンタル面での防衛に役立ちそうな作品をピックアップしてみた。

 「うらみちお兄さん」(既刊2巻、久世岳/一迅社)は、社会人の「仕事なんだから」はどこまでもつのかをつついたコメディーだ。主人公、表田裏道(おもた・うらみち)の職業は子ども番組の「体操のお兄さん」。31歳と「お兄さん」を自称するには若干微妙な年齢で、職務に取り組む気力において黄信号が点滅中。

 番組出演中に、ウラとオモテのウラの部分を全開にする裏道のせりふが作品の肝だ。「(よい子のみんな)滞りなく集まるんだよ。お兄さんの手を煩(わずら)わせないでね」「お兄さんの空元気もあるだけマシってもんだよ」「明日を生きていくために、早く家に帰るために、みんなも協調性を身につけていくんだよ」

 完全武装の商業スマイル、本音をもらすときのホラーな笑み、仕事終了時の全き無表情と、ほぼ3種類の表情で物語をけん引してきた裏道だが、2巻に入り感情のバリエーションに「怒り」が混じるようになった。大人向けラブコメにこそ合いそうな美麗絵柄もあって、キャラのビジュアルを逆手にとって落とすギャグ漫画の技がさえる。単行本発売を記念して制作されたプロモーションビデオでは、人気声優が裏道を演じたという。特大ポイントのゴチックフォントで歓喜する作者あとがきを見て、働く者としての連帯をふと覚えた。

 さて、作中で「地味」「不細工」との設定であっても、客観的に見れば目鼻立ちが整ったきれいな顔、というのが「漫画キャラあるある」なのだが、「いつにも増してブスな気がする」(既刊1巻、ヤゴヴ/KADOKAWA)の登場人物(女性)たちは本当に、胸が詰まるほど個性的な風貌だ。容貌に自信のない彼女たちの本音を4コマギャグで表現した本作は、従ってパワフルな説得力に満ちている。

 たとえば仕事でワゴンのハンドルを握っているとおぼしき女性は、運転席で1人妄想ライブを繰り広げる。「喪女(もじょ)(もてない女性の意味)でぇーす、アリーナァア」「2階席ィ、届いてるゥ?」「聴いて下さい、喪女のソウルソング、『無残な顔に隠したハート』」

 遺憾なことに窓を開けっぱなしにしていたので、併走する車の若い男性ドライバーに聞かれてしまう。

 平均的容貌の女性も登場するが、彼女の1日の始まりはこんな具合。「ウソでしょ、もう朝?また1時間半かけて化粧して髪の毛セットしなきゃいけないの?」「今日は会社休む…だって気力ゼロだもん」「でも美容関連で作った借金、合わせて120万の返済が残ってる…」

 結局彼女は泣きながら起き上がるのだ。

 少年漫画に高揚するとき、男女問わず心に少年を飼うように、厳しい社会に直面するとき、人は老若男女問わず健やかな不細工を心に飼うのではないか。そんな普遍性すら感じてしまう作品だ。

 打って変わって「Оp―オプ―夜明至の色のない日々」(既刊1巻、ヨネダコウ/講談社)は、フリーの保険調査員の日常をハードボイルドタッチで描く。主人公の夜明至(よあけ・いたる)は、何らかの事情で警視庁のキャリアを捨て、末端の調査員となった。

 上っ面だけとすぐわかる愛想のよさと、インスピレーションあふれる良心的な仕事ぶりが同居する。賠償や支払いに関わる事故の調査が主な業務なので、接する相手は強い思惑を抱え、必ずしも正直とは言いがたい。夜明の目線に沿った、潜入カメラのごときアングルを追いながら、込み入った事情を解きほぐす愉悦を味わうつくりだ。

 彼に複眼を与えるのが「共感覚」を持つ少年高比良玄(たかひら・くろ)で、人の感情を色で理解する特異な能力を通し夜明の調査に協力する。だが尊属殺人の加害者だという少年の素性はいまだ明らかではなく、言葉数の多さに比べてうそ寒いほど感情の触れ幅が少ない夜明の抱えた事情も、伏せられた部分が多い。

 「能ある鷹は爪を隠す」タイプの主人公を照れずに堪能できるのも漫画のよさだ。「かっこよく仕事をする自分」を思い描いた遠い記憶を、意地悪くつつくのではなく、優しくあやしてくれる作品に仕上がっている。

 「機動警察パトレイバー」(全22巻、ゆうきまさみ/小学館)は1988年の初期OVA発表からTVアニメ放映、漫画連載とメディアミックス展開された。

 「レイバー」と呼ばれる巨大2足歩行ロボットが闊歩(かっぽ)する近未来(といっても作品開始から10年後の1998年)が舞台。主人公・泉野明(いずみ・のあ、ちなみに女性)をレイバー隊の警察官に設定することで、少年のビルドゥングスロマンに傾きがちなロボットアニメを、青年向けお仕事漫画に軌道修正したような、独特の魅力を持つに至った。

 今も根強い人気を誇るが、「働き方改革」の視点からみるといささか危険な作品である。ろくに帰宅すらかなわない激務が、野明たちの姿を通すとまたとない冒険に映る。プライバシーもないような職場での共同生活で、食事作りやお茶当番を分担するのだが、その担当表まで魅力的に見えてしまうのだ。

 また「理想の上司」という話題が出たとき、必ずといっていいほど名前があがるのが野明たち第二小隊の隊長、後藤喜一(ごとう・きいち)。かつては「カミソリ」と呼ばれ今は「昼行灯(あんどん)」との評判をとる黄金パターンだ。犯罪者に「こちら側の人間」と評される人間性の幅広さ、変わらぬ「カミソリ」ぶりは、時として部下や同僚の目を飛び越え、読者のみが味わえる。

 後藤にももちろん上司はいる。登場回数の少ない「課長」は「綱紀粛正」と叫び叱責(しっせき)に声を枯らし、底知れぬ部下を前に胃に穴の一つでも作っていそうだ。「課長も警察官だよ」と、長い連載期間中ごくたまに後藤にほめてもらえた管理職の苦労を、今なら偲(しの)べるように思う。

クロフネコミックス 「広告会社、男子寮のおかずくん」 著者:オトクニ (C)Otokuni/libre 2018

 「広告会社、男子寮のおかずくん」(既刊2巻、オトクニ/リブレ)はレシピつきの料理漫画。多忙な4人の若いサラリーマンが、週に一度「おかず担当」「汁物担当」などと分担を決めて料理を持ち寄り、食卓を囲む設定だ。タイトル通り彼らが住むのは会社の寮だが、良好なコミュニケーションがシェアハウス願望を刺激し、おいしそうな献立の描写とあいまって甘やかされた気分になる。一方、裏を返せば「この人数で分担しないと、日々のごはんも乗り切るの大変なんだよ」という現実を描いた作品とも言える。

 登場レシピの特徴は「凝りすぎない」「基本深夜メシなので、節度あるボリューム」「野菜も食べなきゃ、の義務感を優しくサポート」だろうか。第1回の肉じゃが調理場面をとってみても、材料がシンプル、手順が明確、それでいて煮物が要求する時間の長さに言及するなど、きわめて実用的。ちなみに真正面から五月病対策を取り上げた回もある。答えは明快で、「元気がないときは豚を食え」だそうだ。

 料理や食事だけではなく、仕事のシーンも描かれる。優しい味でたまに塩気があり、香辛料というほどのものはない、胃もたれしない描写が疲れを癒やしてくれる。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly6月4日号から転載)


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