「漫画の森」「友情、努力、勝利」

 映画にパニック映画があるように、漫画にも「パニックもの」とでも呼ぶべきジャンルがある。災厄、未知の怪物、悪意ある陰謀、パニックの原因はさまざまだ。冒頭で読み手にショックを与え、ストレスにさらされた人間模様を描き、当然アクション要素も期待できるので、とかく好まれやすい題材といえる。楳図かずおの「漂流教室」を引くまでもなく、コンスタントにヒット作が出ているジャンルであるように思う。

 「彼方のアストラ」(全5巻、篠原健太/集英社)もパニックものの一つだが、同ジャンルの中でも珍しいほどさわやかな読後感を誇る作品になっている。作者は「週刊少年ジャンプ」で「SKETDANCE」(全32巻/集英社)という作品を約6年間連載した経歴の持ち主。同誌のスローガンである「友情、努力、勝利」は「彼方のアストラ」でも健在だが、このスローガンの縛りの中、いってみれば類型の中で、安定感に収まらないはしゃいだような躍動ぶりを見せる展開に驚嘆する。

 冒頭、「西暦2063年」のキャプションで始まる本作は近未来を舞台にしたSF。星間航行がカジュアルにできるようになった設定の世界で、5日間のキャンプに行くはずだった9名の少年少女が遭難する。理不尽にも、母星から5千光年以上離れた場所に飛ばされてしまった彼らにあるのは、最新式とはいえない宇宙船のみ。パイロットと航行手段を確保して安心したのも束の間、食料や水の問題が浮上する。果たして彼らは帰還できるのか。なぜ、安全だったはずのキャンプが過酷なサバイバル行に化けてしまったのか。ミステリー要素も絡み、抜群のリーダビリティーでラストまで引っ張る。

 「パニックもの」であるからには、当然次から次へと危機が降りかかる。宇宙で遭難、しかも連絡不能というだけでじゅうぶんに危機なのだが、「まだまだ」といわんばかりの逆境に見舞われるのだ。なかでも2巻で描かれる、流星体衝突にまつわるエピソードは出色で「もうだめだ」「なんとかなるのか」「やはりこれでもだめなのか」のたたみかけ方といい解決方法といい、緊迫感と漫画ならではの高揚感に満ちている。

 最終5巻末尾の「あとがき」で、作者は自身を「決してSFに詳しいわけではない」と評している。とはいえSFならではのガジェット、宇宙船や宇宙服の設定、外部惑星の環境や風景描写には付け焼き刃にみえない重みがある。いっぽう技術担当のクルーが必要にかられて自作する「可食テスター」など、小ネタメカにはニッチな遊び心満載。なにより、先進技術に向き合ったときに人はどうなるのかという、80年代以降のSFに顕著などっしりとした視点がみられる。

 外国名を名乗るキャラクターが、どうみても日本語でしかない駄じゃれギャグをかますなど、慣れないと気恥ずかしい思いをする場面もあるかもしれない。だが、一度読み終わってから再読すると、ギャグの場面は読者サービスにとどまらない、大げさにいえばある種の人間賛歌なのだと分かる。

 最終巻の帯に、綿密な伏線など構成の妙をうたう文言が踊るように、たしかに本作は再読することで、つまり彼らの旅の結末を知った後でも、初読時とは別の楽しみ方ができる作品だ。特に、1巻から5巻のカバー絵を並べてみたとき、読了者は深い感慨を抱くのではないだろうか。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly4月16日号から転載)


K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

第98回天皇杯 トピックス

準々決勝の結果(10月24日開催)

浦和レッズ 2-0 サガン鳥栖 鹿島アントラーズ  - ※11月21日開催 ヴァンフォーレ甲府 ジュビロ磐田 1-1 (PK:3-4) ベガルタ仙台 川崎フロンターレ 2-3 モンテディオ山形  

ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ