視察相次ぐ〝奇跡〟の集落 自主財源、鹿児島やねだん

自治体職員らに地域再生を教える豊重さん=2014年11月

 鹿児島空港から車で2時間近くかかる鹿児島県鹿屋市の柳谷地区。「やねだん」という愛称で知られる。人口はおよそ300人。この集落はかつて、消滅の危機だった。若い人は離れ、急ピッチで高齢化が進展していた。ところが、今や再生し、〝奇跡〟の集落と呼ばれている。(敬称略)

 

 その集落を1人のリーダーがけん引した。自治公民館長、いわば町内会長の豊重哲郎氏(76)だ。今では「地域再生の神様」ともいわれ、全国の行政関係者らが年間5千~6千人、やねだんを視察している。

 豊重氏の鞄の中には、いつも、集落の人々の年代別の分布グラフがある。

 「地元出身の高校生のうち7人が結婚してUターンしてくれています。集落のうち、高校生以下の子供は31人と1割以上になりました。今年も2家族がUターンしてくれます」。さらに、他の県などからIターンする家族もひっきりなしだ。

 こう胸を張る豊重だが、21年前に公民館長に就任した時は視界不良の中でのスタートだった。就任直後に出納帳を見て愕然とした。預金1万円、現金はゼロだった。

 集落を再生させるためには、まずは自主財源が必要だ。着手したのは、サツマイモづくりだった。

 しかし、当初住民らの間では反発もあった。サツマイモは重く、高齢者にとって収穫は重労働だからだ。

 

全世帯にボーナス

 

 そこで、実際の労働は高校生に任せることにした。「自主財源ができれば、オリックスのイチロー選手の試合を見に行けるぞ」と呼びかけた。

 高校生は夕方になると、サツマイモ畑に姿を現した。ぎこちなく農作業に汗をかいていると、高齢者が吸い寄せられるように集まる。かつて培ったノウハウを教えるためだった。

 その結果、最初の収益35万円となる。だが約束通り、高校生を引率して、福岡ドームで野球観戦した。加工食品が必要だと考えた豊重は焼酎の販売を踏み切った。また、トウガラシの生産も始めた。

 自主財源は増え、500万円になった。そのお金をどう使うべきか。話題となったのは、集落のすべての世帯向けのボーナスだ。

 集落の122のすべての世帯に1万円のボーナスを支給した。ボーナスだけではない。自主財源は、子供たちに勉強を教える寺小屋への補助にも使われる。

 また、ある年は高齢者向けの手押し車の購入。さらに、注目すべきは、集落の古民家の再生だ。「迎賓館」と名付けられ、そこに全国から芸術家の移住者を募った。

 

原点は運動公園

 

 豊重はとにかく「全員野球」にこだわる。その原点となったエピソードは、公民館長就任2年目の1998年に完成した運動公園だ。

 木材の切り出しや土地の造成、建物の建設などを担ったのは、ほぼすべてを集落の人々だ。結局、費用は8万円しかかからなかった。さらに、運動公園は「副産物」を生み出した。住民の健康増進だ。

 高齢者がこの公園の運動器具で体を動かした結果、病院へ行く回数が大幅に減ったのである。

 鹿屋保健所の調査によれば、「やねだん」の75歳以上の医療費は、市平均より35万円安い44万円。また介護給付金も4万円安い95万9千円だった。また、20年間、寝たきりの高齢者はいない。社会保障費の削減にもつながっているのだ。

 

ノウハウ教える

 

 さらに、私が注目するのは豊重が10年前に始めた「故郷創世塾」だ。そこには全国の自治体や社会福祉法人の関係者が集まる。年に2回開催。豊重はその塾長として、地域再生のノウハウを教える。「やねだん」DNAは全国に広まっているのだ。

 日本が抱えるさまざまな問題の解決のヒントは「やねだん」にある。

 筆者はこう考えて、「日本への遺言 地域再生の神様〈豊重哲郎〉が起こした奇跡」(幻冬舎)を上梓した。自治体関係者だけでなく、サラリーマンなどにも読んでもらいたいと思っている。

 

[略歴]

ジャーナリスト

出町 譲(でまち ゆずる)

1964年、富山県高岡市生まれ。早稲田大政経学部卒。1990年に時事通信社入社。経済部やニューヨーク特派員などを経て2001年にテレビ朝日。ニュース番組でデスクを務める傍ら、東日本大震災をきっかけに著作活動を開始。北日本新聞や月刊誌「潮」などでも、地域再生をテーマに定期的に執筆する

 

(KyodoWeekly12月25日号から転載)


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