発酵調味料を作る木桶が主役、阪神梅田本店で職人仲間が集うイベント開催

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 「木桶による発酵文化サミットin阪神」が5月11日、阪神梅田本店(大阪市)で始まった。発酵調味料であるしょうゆやみそ、酢、酒造りなどに使われてきた木桶は、戦後に減少の一途をたどり、絶滅の危機に瀕している。そんな桶仕込みの発酵調味料を次世代に継承するため、2012年に立ち上がった「木桶職人復活プロジェクト」の仲間たちによるトークショーをはじめ、木桶や発酵に関するワークショップを開催。桶仕込みの発酵調味料を使った料理やお酒をその場で味わい、買うこともできるイベントだ。

職人らと共に、大きな木桶が会場入り

 OVO編集部はイベント前日、準備中の会場に潜入。しばらくすると、プロジェクトの呼び掛け人である「ヤマロク醤油」の山本康夫さんが現れた。一足早く会場入りしていた「職人醤油」の高橋万太郎さんとハグをして再会を喜ぶ康夫さん。その後もしょうゆ蔵元、建具屋、ラーメン屋の職人らが続々と到着した。

 そこへ、香川県小豆島から木桶が到着したとの知らせ。取材メンバーも含めて、その場にいた全員で地下駐車場へと向かう。トラックのウィングサイドパネルが開き、高さ約2.1メートル、直径約1.7メートルの巨大な木桶が姿を現すと、歓声が上がった。次いで、箍(たが)に使用する約14メートルの細長い竹、イベント期間中に組み上げていく木桶用の板などを、慣れた手つきで荷台から降ろしていった。

トラックの荷台に積まれた木桶。
トラックの荷台に積まれた木桶。
「人数が足りないんで、皆さんも手伝ってください」と軍手を渡され、OVO編集部員も一緒になって木桶を転がしながら運ぶ。すっかり汗だくになった。
「人数が足りないんで、皆さんも手伝ってください」と軍手を渡され、OVO編集部員も一緒になって木桶を転がしながら運ぶ。すっかり汗だくになった。

「やったる(樽)ぞ!」「オッケー(桶)!」

 メディア各社を集めてセレモニーが行われたイベント初日の5月11日、元気な声が百貨店のフロアに響き渡る。「木桶職人復活プロジェクト」の仲間同士で、気合を入れてこぶしを突き上げるときの合言葉だ。

「やったるぞ」の音頭を取った高橋万太郎さん(左から2人目)。
「やったるぞ」の音頭を取った高橋万太郎さん(左から2人目)。

 セレモニーでは、前日会場に運んだ木桶の材料となる板の接着面に、各々メッセージを書き込んだ。
 「この桶は一度組み上げたら100年から150年使われます。解体されてメッセージが読めるようになったときには、皆さんお墓の中。後世にメッセージを残すと思って書いてください」

メッセージを書き込むOVO編集部。
メッセージを書き込むOVO編集部。

 メッセージを書き込んだ板を、木桶の形に組み上げていく。釘や接着剤は使わない。板同士はほぞでつなぎ、木槌でたたいて隙間を詰めていく。最後はバンドで仮締めをした。イベント期間中に、桶の周りにはめる箍(たが)を竹で編み、みんなで木桶を完成させていくのだという。会場では、箍の編み方を紙バンドで体験できる無料のワークショップも随時開催される予定だ。

組み上げたばかりの木桶の前に立つ岡主弘(おか・もとひろ)さん。本業は小豆島の建具屋だが、「ヤマロク醤油」の山本康夫さんと関わるうちに、木桶作りのプロジェクトで全国を飛び回るようになった。
組み上げたばかりの木桶の前に立つ岡主弘(おか・もとひろ)さん。本業は小豆島の建具屋だが、「ヤマロク醤油」の山本康夫さんと関わるうちに、木桶作りのプロジェクトで全国を飛び回るようになった。

絶滅の危機に瀕していた木桶職人

 「木桶職人復活プロジェクト」が立ち上がったきっかけは、「ヤマロク醤油」の5代目である山本康夫さんが桶を発注したこと。藤井製桶所は、かつて木桶作りの産地だった大阪・堺に1軒だけ残る桶屋だという。
 「2009年のことでしたが、醤油屋からの新桶の発注は戦後初と言われたんです。いろいろ聞くと、戦後の納品はたった4本。納品に来た時に言われたのが、『いつまで作れるか分からないよ。自分の桶は自分で直してね』でした」。

 木桶の寿命は100年から150年。職人として食べていけるはずがない。木桶職人の絶滅はもう目の前だった。
 「一番木桶を使っている醤油業界でも、桶仕込みをしているのはメーカー全体のたった1%。この少ない市場を奪い合うのではなく、メーカー同士で技術を共有して木桶職人を増やし、桶の市場を大きくしていこう。そうすれば、売り上げが増える。桶職人の仕事ができる。消費者にとっては木桶の美味しい醤油を味わう機会が増える。この三方良しの仕組みを作っていくのが、われわれの目的なんです」
 こうして、プロジェクトが小豆島で産声を上げた。

「桶仕込みのしょうゆには、作り手の性格がそのまま表れる。同じ材料でも、僕のはどうしても濃くなる」と説明する山本康夫さん。現在全国の醸造の現場で使われている木桶は、ほとんどが戦前に作られたものだという。
「桶仕込みのしょうゆには、作り手の性格がそのまま表れる。同じ材料でも、僕のはどうしても濃くなる」と説明する山本康夫さん。現在全国の醸造の現場で使われている木桶は、ほとんどが戦前に作られたものだという。

作り手の個性が出る桶仕込みの醤油

 プロジェクトのもう一人の立役者である高橋万太郎さんは、蔵元ではなく、蔵元仕込みのしょうゆを販売する流通業者だ。全国400以上もの蔵元を訪問し、「醤油本」(玄光社MOOK)などの著者として、しょうゆの魅力を広める活動をしている。
 「世の中、ニーズが変わってきています。クラフトビールが代表していると思いますが、大手の作るきちっとした品質もいいけれども、地方の作り手が作る、その人しか、その蔵元しか作れないような個性的な味はいいよねっていうのが、木桶仕込みのしょうゆ」
 木桶には発酵の主役である微生物が住み着き、その木桶独特の生態系を作る。そのため、その蔵元にしか出せない特別な味が生まれるのだという。
 「ワインに例えるとイメージが湧くと思います。見た目が薄い『白』は、熟成期間を少し抑えめにして、塩分濃度を高くしたもの。逆に濃いのは、熟成期間が長くて旨味が強くなる。別の言い方をすると、お塩を掛けて食べたいような素材を生かした料理には色が淡いしょうゆを。逆にソースかけて食べたい時は、濃厚なおしょうゆをかけると、より楽しくおいしくなります」

桶仕込みのしょうゆの味の違いを手軽に試せるよう、各蔵元のしょうゆを100リットルボトルで販売。種類別に色分けされ、それぞれの種類に合った食材や調理法も提示している。
桶仕込みのしょうゆの味の違いを手軽に試せるよう、各蔵元のしょうゆを100リットルボトルで販売。種類別に色分けされ、それぞれの種類に合った食材や調理法も提示している。
みそ探訪家・岩木みさきさんがプロデュースする木桶仕込みのみそのコーナー。
みそ探訪家・岩木みさきさんがプロデュースする木桶仕込みのみそのコーナー。
和歌山県・那智勝浦町の丸正酢醸造元の小坂康夫さんが作るお酢。「金属やFRPのタンクで作るとキーン、ピリッとした味になるが、木桶で作ると本当にまろやか」。
和歌山県・那智勝浦町の丸正酢醸造元の小坂康夫さんが作るお酢。「金属やFRPのタンクで作るとキーン、ピリッとした味になるが、木桶で作ると本当にまろやか」。
会場には、東京・八丁堀の人気しょうゆラーメン店「麺や七彩(しちさい)」のイートインコーナーも。プロジェクトを応援するオーナーの阪田博昭さんは、食材・調味料・調理法に徹底してこだわっており、桶仕込みの個性的なしょうゆはラーメン作りでも人気だという
会場には、東京・八丁堀の人気しょうゆラーメン店「麺や七彩(しちさい)」のイートインコーナーも。プロジェクトを応援するオーナーの阪田博昭さんは、食材・調味料・調理法に徹底してこだわっており、桶仕込みの個性的なしょうゆはラーメン作りでも人気だという

 「木桶職人復活プロジェクト」では、毎年1月、小豆島で新桶作りを行っている。今では数百人規模に広がり、メーカーだけでなく流通業者、大工、料理人が集まるお祭りに発展した。熱気あふれる新桶作りの様子は、フォトグラファー・小林茂太さんによる写真展で確認できる。

 高橋万太郎さんは、私たちにこう打ち明けた。
「木桶で作ると、しょうゆに限らず作り手の個性が出るのが最大の特徴だと思っているんです。そういったものを使っていただけると、回り回って桶職人が増えてくる。『風が吹けば桶屋が儲かる』。まさに、その理論だと思います」

しょうゆの解説をする高橋万太郎さん。
しょうゆの解説をする高橋万太郎さん。

 「木桶による発酵文化サミットin阪神」は16日(月)まで。

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