連載【躍進イタリア五輪代表を支えたおもてなし】③市民との交流には細心の注意

フェンシングの会場を設置するボランティアスタッフたち。徹底した動線分離を行った。イタリア選手と同じTシャツを着用し、一体感を高めた。
フェンシングの会場を設置するボランティアスタッフたち。徹底した動線分離を行った。イタリア選手と同じTシャツを着用し、一体感を高めた。

 コロナ禍で開催された東京2020オリンピック・パラリンピック。事前キャンプを受け入れる自治体や大学のメリットは、市民や学生が選手団と直接触れ合える「交流」にある。ボランティアによる参加はその目玉だが、コロナ禍では懸念される点であり、対策に関係者は腐心した。イタリアオリンピック委員会(CONI)の事前キャンプ地となった早稲田大学所沢キャンパスでも「バブル内」と「バブル外」の人をさらにカテゴリー分けし、接触した距離や時間で細かくルール化した。

▽ボランティアに選手と同じ公式Tシャツ

 6月下旬、コロナウイルス変異株の流行を受け、大会実施に関する不安要素が増えてきた。既に選手団との動線分離に関して徹底的に検証し備えていたが、ある教授から「空気感染の恐れもあるのでは」との指摘があった。それを受け、選手団と学生が特に行き交う可能性がある廊下に、高さ2メートル60センチ、長さ25メートルほどの壁を、選手団受け入れの直前に設置するなど警戒を強めた。そんな中、学内の動線分離と誘導という大役を担ったのは、所沢市民と早大生で構成するボランティア120人だった。

 ボランティアもチームの一員という思いから、選手と同じく、イタリアチームのスポンサーであるアルマーニ製のCONI公式Tシャツが支給された。多くの人が予定通り参加してくれたが、配置割りは日々試行錯誤だったという。1カ月あまりのキャンプ期間中、陸上、水泳、フェンシング、トライアスロン、レスリング、ゴルフの6競技と、CONIスタッフの計233人が滞在。所沢市と早大で運営した「ボランティア事務局」は、ボランティアに対し選手団とは決められた一定の距離(基本2メートル、何か伝える際は1メートルを短時間)を守り徹底するよう指導した。

 また、練習に使用する道具の設置のほか、用具の消毒も行い、キャンプ運営を支えた。当初、マスクを着用していない選手がいたため、注意を促すための自然なイタリア語の呼びかけ方なども指導した。選手とボランティアの橋渡し役を務めた事務局スタッフの三浦恵介さんは「留学に行きたくてもコロナで行けなくなった学生が、海外選手と距離を持ちながらも接したり、運動部に所属する学生が身近で練習を見ることができとてもよかったと話していたり、暑い中での活動だったがみんな充実した表情だった」と振り返る。

▽選手も喜んだ見学会

 屋内競技の練習見学はかなわなかったが、所沢市の主催で早大内の陸上競技場で7月26日、事前申し込み制で、練習見学会を実施した。陸上選手の練習風景を市民と学生120人が約1時間、グラウンドの土手に座り、イタリアの小旗を振りながら練習を見学。後日、金メダルを獲得した選手も練習を行っていた。オリンピックの舞台に立つトップアスリートたちのエネルギーを間近で感じ、目を輝かせた。コロナ禍でチームメート以外とのふれあいが減っていることもあり「とてもうれしかった」と話す選手も多かった。選手自らが一定の距離を保って見学者と記念撮影を行う姿も見られ、これらの写真は、選手のSNSなどで発信されたりもした。また、早大の学生によるオリパラ推進プロジェクト「VIVASEDA」による、選手団とのオンライン交流も実施。藤本正人所沢市長をはじめ、180人の市民も観覧し、クイズやゲームなどでフェンシング選手との交流を楽しんだ。

7月26日に1日だけ早稲田大学所沢キャンパスの陸上競技場で実施した所沢市民や早大生への公開練習。コロナ禍で交流が難しい中、選手も見学者にとっても貴重な時間となった。
7月26日に1日だけ早稲田大学所沢キャンパスの陸上競技場で実施した所沢市民や早大生への公開練習。コロナ禍で交流が難しい中、選手も見学者にとっても貴重な時間となった。

 コロナ前の予定では、北海道苫小牧市で単独事前合宿する予定だった陸上男子走り高跳びのジャンマルコ・タンベリ選手を激励しに、苫小牧市の職員2人が早大を訪れ、激励の品を渡す一幕もあった。その後、タンベリ選手は金メダルを獲得。「有望と聞いていたが金メダルを獲るとは。渡した地元のお守りのご利益があったかな」と、苫小牧市の桝田崇之さん。優勝報告も届き、地元紙でも披露された。

▽選手団と情報共有し運営

 入国選手の突然の予定変更も含め、バブル内外で予期しないことが連日起きた。コロナ禍ゆえの「現象」に翻弄されながらも、関係者は工夫を凝らしてそれぞれの役割を果たした。バブルの中と外で起こっていることは互いに分からないため、毎日欠かさず午後4時にCONIも含めた関係者全員で「ヘッドクオーターミーティング」をオンラインで実施。情報を共有しながら、キャンプ運営と交流という「命題」を果たした。CONIのカルロ・モルナーティ事務総長は「所沢で質の高い事前合宿ができたことが躍進の一つの要因だったと感じている」とキャンプを高く評価した。(続く)

コロナ前に苫小牧市で事前キャンプを行う予定だった走り高跳びのジャンマルコ・タンベリ選手を激励に、早稲田大学所沢キャンパスに訪れた苫小牧市職員。屋外で距離を離してプレゼントを贈った。
コロナ前に苫小牧市で事前キャンプを行う予定だった走り高跳びのジャンマルコ・タンベリ選手を激励に、早稲田大学所沢キャンパスに訪れた苫小牧市職員。屋外で距離を離してプレゼントを贈った。

<筆者略歴>
中山英子(なかやま・えいこ)
 信濃毎日新聞の記者時代に、冬季そり競技スケルトン競技を始め、2002年ソルトレークシティー、06年トリノ両冬季五輪に出場。東京大会ではイタリアチームほか事前キャンプに携わる。長野県出身。

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