10億倍の光で10億分の1を見る 次世代放射光施設でオンラインセミナー

次世代放射光施設と東北大サイエンスパークの完成予想図(東北大提供)。
次世代放射光施設と東北大サイエンスパークの完成予想図(東北大提供)。

 東北大青葉山新キャンパス(仙台市)で建設が進む次世代放射光施設について、概要や利用方法を紹介する仙台市主催のオンラインセミナー「放射光で広がる未来のモノづくり」が11月18日、開かれた。電子を光速近くまで加速してつくる放射光は、太陽光の10億倍の明るさがあり、ナノメートル(10億分の1メートル=100万分の1ミリ)級の物質の構造や機能を〝見える化〟できる。新しい材料や製品の開発に向け、2024年度の運用開始を目指している。

 矢野経済研究所(東京)で開かれたセミナーには、約200人がオンラインで参加。まず、郡和子仙台市長がビデオメッセージで「次世代放射光施設が本格稼働すれば、10年間で1兆9000億円余りの経済波及効果が期待されている。多くの人に威力、能力、可能性を知ってもらいたい。新たなイノベーションが生み出されることにつながるよう祈念する」とあいさつした。

航空機からシャンプーまで

石川哲也理化学研究所放射光科学研究センター長。
石川哲也理化学研究所放射光科学研究センター長。

 放射光施設は国内に9カ所あり、次世代放射光施設が完成すれば10カ所目、東北、北海道では初となる。代表格ともいえる兵庫県佐用町のSPring-8(スプリングエイト)を運用する理化学研究所放射光科学研究センターの石川哲也センター長は「SPring-8の利用者の約20%は産業界。航空機からシャンプーまで、広い範囲で使われている」と説明。温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルに関連し、光合成タンパク質の構造・機能解明や燃料電池の開発に大きな役割を果たすと強調した。

Spring-8の産業利用例(理化学研究所放射光科学研究センター提供)。
Spring-8の産業利用例(理化学研究所放射光科学研究センター提供)。

 その上で「放射光で見ることで、いろいろと分かる。それで考え、行動に移し、結果を出して皆が幸せになるのが放射光のあるべき姿。次世代放射光施設も、こうあってほしい」とエールを送った。

専門知識は不要

高田昌樹光科学イノベーションセンター理事長。
高田昌樹光科学イノベーションセンター理事長。

 次世代放射光施設の運営に当たる一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC=フォシック)の高田昌樹理事長は、従来の放射光施設との違いについて言及した。SPring-8が放射光の中でも波長が比較的短い「硬X線」を主に使うのに対し、次世代放射光施設は波長の長い「軟X線」を使うことで、タンパク質や酸素、炭素といった軽元素の分析性能が飛躍的に向上する。また、施設の建設や運営に関しては、国、光科学イノベーションセンター、宮城県、仙台市、東北大、東北経済連合会が出資する「官民地域パートナーシップ」という仕組みを導入する。そして企業と学術がタッグを組む「コアリション(有志連合)」という仕組みで、企業にとっては専門的な知識がなくても放射光を使いこなせ、技術漏洩(ろうえい)も防ぎながら課題解決に取り組める-などだ。

7種類のビームラインと社会課題の関係(光科学イノベーションセンター提供)。
7種類のビームラインと社会課題の関係(光科学イノベーションセンター提供)。

 コアリションには、既にNTT、ポーラなど約100社がメンバーとして加入。「東京駅から新幹線で1時間半、仙台駅から地下鉄で9分と、世界に例を見ない立地。さまざまな学術の連携の機会も提供する」とアピールした。

リサーチコンプレックス

村松淳司東北大国際放射光イノベーション・スマート研究センター長。
村松淳司東北大国際放射光イノベーション・スマート研究センター長。

 東北大からは、学術研究と産学連携を先導する専門組織として2019年に設置された国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS=スライス)の村松淳司センター長が出席した。東北大は2030年を見据えた「東北大ビジョン2030」の中で「次世代放射光施設の整備を契機に、青葉山新キャンパスのサイエンスパークに世界的に競争力の高い企業を集積し、日本最大規模のリサーチコンプレックスを形成、科学技術イノベーションをけん引する」と位置付けている。

次世代放射光施設やサイエンスパークゾーンが整備される東北大青葉山新キャンパス(東北大提供)。
次世代放射光施設やサイエンスパークゾーンが整備される東北大青葉山新キャンパス(東北大提供)。

 村松センター長は、放射光を取り出して試料に照射するビームラインの概要や、企業が東北大を通じて施設を利用できる制度の仕組みを紹介。「センターの役割は、ビームラインへの技術供与、コアリションメンバーとの共同研究サポート、国際的ネットワークの形成、人材育成」とした上で「幅広い分野の多種多様な研究者の集う場所になることを期待している」と締めくくった。

髪の空洞化解明

伊藤廉ミルボン研究開発部統括マネージャー
伊藤廉ミルボン研究開発部統括マネージャー

 放射光の産業応用例として登壇したのは、美容室向けヘア化粧品メーカー、ミルボン(東京)研究開発部の伊藤廉・統括マネージャー。毛髪の老化が内部の空洞化であることをSPring-8で突き止め、空洞を埋める製品の開発につなげた経験を振り返った。「日本人の毛髪の太さは平均0.08ミリで、解析にはナノメートルの分析力が必要。透過型電子顕微鏡による観察で、毛髪内部の密度が年齢とともに減少していることが予測されたが、非破壊でないと本当に起こっているのか同定できない」ことから、SPring-8の放射光エックス線CTを行った。その結果を基に「消費者に納得してもらえる商品を開発できた」という。

しなやかでタフ

伊藤耕三東京大大学院新領域創成科学研究教授。後ろはしなやかなタフポリマーを多用したコンセプトカー。
伊藤耕三東京大大学院新領域創成科学研究教授。後ろはしなやかなタフポリマーを多用したコンセプトカー。

 東京大大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授は国の事業「ImPACT(インパクト)」で、薄くても破れず、硬くてももろくない「しなやかなタフポリマー」を企業と共に開発した経緯を紹介した。プラスチックやゴムのようなポリマーは、金属やセラミックと並ぶ三大材料だが「破壊のメカニズムは30年分かっていなかった」。そこでSPring-8の放射光による観察とスーパーコンピューターによるシミュレーションを併用し、ポリマー破壊の分子的構造を解明。「厚みが従来の5分の1というリチウムイオン電池の電解質膜や、硬さは1・6倍で耐衝撃強度は10倍以上のポリカーボネート」などを実現し、重量が40%軽いコンセプトカーを作り上げた。

お困りごとから

パネルディスカッションの様子。左から水越孝氏、伊藤廉氏、村松淳司氏、伊藤耕三氏(画面)、高田昌樹氏、石川哲也氏。
パネルディスカッションの様子。左から水越孝氏、伊藤廉氏、村松淳司氏、伊藤耕三氏(画面)、高田昌樹氏、石川哲也氏。

 矢野経済研究所の水越孝社長が司会を務めたパネルディスカッションでは、演者はオンライン参加者からの質問に答え、最後に一言ずつ放射光利用への感想を述べた。

 石川氏「放射光の産業利用は最先端の部分が注目されがちだが、多くのことに利用できるはず。イノベーションを起こして産業をつくるには大変な努力がいるが、まずいところを改良して利益を増やすことは結構簡単にできる。そういう使い方も検討してもらえれば」

 高田氏「お困りごとの中から新しいサイエンスが生まれる。多くの分野の研究者が集まり、可視化が進んでデータサイエンスやAIとも容易につながるようになる。そういうダイバーシティ(多様性)が日本の産業競争力を強めていく。是非参加し、課題を持ち込んでほしい」

 伊藤耕三氏「ImPACTをやって、見なかった物が見える放射光の威力を感じた。ポリマーの分解機構の解明は、世界的な競争となっている。放射光と組んだ分解の研究は世界的にもあまりないので、そこを強みに打ち勝っていきたい。非常に期待している」

 村松氏「60ペタバイト(ペタは1000兆)というデータが出るが、東北大がサポートできる。データのプロセシングが進み、カバーできる技術が生まれ、それが基礎理論、基盤技術になる。そうなると、もの作り大国ニッポンが復活する」

 伊藤廉氏「SPring-8で、見えなかった領域を見させてもらい、商品開発につながった。しかし限界はあり、カバーできるのが軟X線だと思う。生体マテリアル(材料)をイメージングで細かく見られるので、いろいろな分野の発展が期待できるのではないか」

全国選抜小学生プログラミング大会
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ