独創的で優れた研究を行った8人を表彰 第42回サントリー学芸賞贈呈式

第42回サントリー学芸賞の受賞者。前列中央はサントリー文化財団の鳥井信吾理事長。
第42回サントリー学芸賞の受賞者。前列中央はサントリー文化財団の鳥井信吾理事長。

 広く社会と文化を考える独創的で優れた研究、評論活動を、著作を通じて行った個人に対して与えられる、「サントリー学芸賞」。その第42回授賞式が12月15日、都内で行われた。今年度は、2019年1月以降に出版された日本語の著作を対象に、「政治・経済」「芸術・文学」「社会・風俗」「思想・歴史」の4部門から8人の受賞者および作品を決定。受賞者8人には、正賞の楯と副賞300万円が贈呈された。

 主催者を代表してあいさつしたサントリー文化財団の鳥井信吾理事長は、「今回の受賞者は5人が女性。女性が過半数を占めるのはサントリー学芸賞が始まって以来、初めて」と今年度を概観。各受賞者の研究評論の優れた着眼点と成果などを紹介した上で、「皆様の素晴らしいお仕事に敬意を表したい」と結んだ。

 楯の贈呈式に続いて、各部門の受賞者が登壇し、受賞の喜びや感謝の言葉を思い思いに述べた。各部門受賞者の著作とコメントは次の通り。

〈政治・経済部門〉

 酒井 正・法政大学経済学部教授は、『日本のセーフティネット格差―労働市場の変容と社会保険』(慶応義塾大学出版会)で、社会保険や公的年金という日本のセーフティネットが抱える問題点を鋭く指摘。

「いま正に雇用が悪化し、セーフティネットの問題が顕在化している。単純に受賞を喜んでいいものかという気持ちもある。社会保障の問題は国全体で議論して共有していく必要がある。それに資するようなエビデンスを見つけて発信していきたい」と抱負を述べた。

 詫摩佳代・東京都立大学法学部教授は、国際政治学者の立場から感染症や健康課題について研究。『人類と病―国際政治から見る感染症と健康格差』(中央公論新社)で、健康を確保していくカギは国境を超える多様な協力関係にかかっていると示唆している。

「本が出版されたのは奇しくも新型コロナウイルスの感染拡大のさなか。自国第一、協力よりも対立という動きを深く憂慮している。他方でワクチンの公平な分配に関する国際協力の枠組みが成立する動きもある。国際協力における対立と協力のせめぎあいがコロナ収束を左右するのでは」と、自著に即して現状を分析した。

〈芸術・文学部門〉

 李 賢晙(い・ひょんじゅん)小樽商科大学言語センター准教授は、戦前の日本で一世を風靡(ふうび)した、朝鮮半島出身の舞踊家・崔承喜(チェ・スンヒ)を研究。『「東洋」を踊る崔承喜』(勉誠出版)で、彼女の戦前から終戦期にかけての活動を、さまざまな資料で丹念に調べ、詳細に分析。国際的にも評価の高い舞踊家が、帝国と植民地、芸術と商業、民族的伝統とモダニズム的革新が交差する、複雑で困難な時代をどう生き抜いたか明らかにしている。

 「研究中に多くの方々と出会い気付いたのは、崔承喜は伝説の舞姫ではなく現在も生き続けている舞踊家だということ。これからも彼女が忘れ去られることはないと思う」と熱く語った。

 中嶋 泉・大阪大学大学院文学研究科准教授は、『アンチ・アクション―日本戦後絵画と女性画家』(ブリュッケ)で、戦後に活躍したたくさんの女性美術家がなぜ日本の美術史から姿を消したのか時代の流れに照らして説明。男性中心に語られてきた戦後の日本美術史を現代の視点から読み直すことで一石を投じた。

 「今まで排除されてきたもの、不可視だったものを見えるようにするにはどうしたらいいのか試行錯誤してきた。今回の受賞者に女性が多いように今は女性の活動に多くの目が向けられている。だからこそ、今後もこの賞に恥じないように活動しなければならないと思う」と決意を述べた。

〈社会・風俗部門〉

 伊藤亜紗・東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター准教授は、『記憶する体』(春秋社)で、障がい者にとって障がいとはいったい何なのか、たくさんのインタビューをもとにした深い洞察によって解説。自らの身体とともに過ごした記憶や時間が、身体的なあるいは心のアイデンティティーを形成すると指摘し、我々に重要な気付きを与えている。

 「今回の賞は私がいただいたというより、研究に関わった、障がいや病気とともに生きている方たちに与えられた賞であり、身体から生まれてくる言葉に与えられた賞。今後もそういう言葉をちゃんと拾っていかなければ」と抱負を語った。

 南方熊楠顕彰会理事で慶応義塾大学非常勤講師の志村真幸(しむら・まさき)氏は、『南方熊楠のロンドン ―国際学術雑誌と近代科学の進歩』(慶応義塾大学出版会)で受賞。イギリスの学術雑誌『ネイチャー』などに掲載された南方熊楠の400近い論文を解読することによって熊楠の実像に迫った。

 「生物学者、民俗学者として知られる南方熊楠はロンドンで論文を書き始め、1900年に日本に帰国後、和歌山からほとんど出ずに活動した。本では、地方にいながらどうして世界的に活躍できたのかを書いた。熊楠は地方から東京などを経ずに世界的に活躍するひとつのモデルケース」と穏やかに述べた。

〈思想・歴史部門〉

梅澤 礼(うめざわ・あや)・富山大学人文学部准教授は、『囚人と狂気―一九世紀フランスの監獄・文学・社会』(法政大学出版局)で、19世紀のフランスにおける囚人と監獄について、当時の新聞や学術論文を使って丁寧に分析。囚人に対する考え方や監獄の役割が社会の情勢とともに変化していくさまや背景を『レ・ミゼラブル』などの文学作品とともに解説した。

 「フランスが近代社会を作り上げていく中で、一部の異質な人々をどのように排除してきたのか。それを科学の名のもとにどのように正当化してきたのか。それに対して作家たちがどのように抵抗してきたのかを追った。今後も社会と人間の在り方を問い続けるような研究を続けていきたい」と静かに語った。

 小山俊樹・帝京大学文学部教授は、『五・一五事件―海軍青年将校たちの「昭和維新」』(中央公論新社)で受賞。犬養毅首相が暗殺された「五・一五事件」の文献を徹底的に調べ上げ、その背景・全容を解明。なぜこの事件は起きたのか。そしてこの事件が後の日本政治にどのような影響を与えたのか、さまざまな視点で分析を行い、独自の答を導き出した。

 「現実はきわめて複雑で奇妙。史実を確定するための考察は非常に困難だった。今の価値観では理解しがたい当時の価値観をどうやって読者に伝えるかにも頭を悩ませた。だが、価値観が今と違っても、史実に基づいて再現し、記録にとどめることが、人類や社会を探求する歴史学の大きな役割」と完成までの苦労を吐露した。

 サントリー学芸賞は1979年創設。毎年、前年1月以降に出版された日本語の著作物を対象に、各部門の選考委員から推薦された作品を、各2回の選考会で審議し受賞者と作品を選出する。人文社会系分野の代表的な賞として定着している。これまでの受賞者数は、今回を含め354人に上る。

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